決闘

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 二十歳の夏、勝也は到頭、特攻基地に廻された。同時に別の部隊から3人が廻されて来た。その内の一人と勝也は親しくなった。名を秀臣と言って勝也とは同い年だ。  明日にも特攻命令が下され命を落とす運命の息抜きに真剣を抜いて剣舞する奴、ビール瓶を窓ガラスに叩きつけてガラスを粉々にする奴、泣きわめきながら裸踊りする奴、訳もなく怒って意味不明な事を叫ぶ奴、そんな酒を片手にやけくその気違いじみたどんちゃん騒ぎをするどさくさに紛れて兵舎の窓を飛び出して妓楼へ行って思いを遂げる、或いは町で知り合った女の家へ行って無理無体に思いを遂げる、そんな精力も性欲も旺盛な横暴な男、それが秀臣だった。  対して勝也は女を未だ知らぬ童貞だ。そんな彼らが何故、親しくなったのかと言うと、二人とも基地の界隈に住む資産家の奥さんに気に入られ、その屋敷に通う間に何度も接触したからだ。  なんでも奥さんは息子が戦死して以来、殊に特攻隊員に哀れみを感じていて行きずりの若い兵隊を見て気に入ったら慈善家よろしく自宅へ招いて御馳走するのが何よりの楽しみになっているのだ。
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