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若葉と莉子
線香の匂いで充たされた葬儀場にクラスメイトたちのすすり泣く声が響く。
都立高校2年の藤若葉は写真の中で微笑む彼女を見つめ、呆然と立ち尽くしていた。
彼は一昨日、テレビから流れてきた音声によって地獄にたたき落とされた。
『続いてのニュースです。都立高校に通う高校2年生の田邊莉子さんが自宅で亡くなっているのが発見されました。警察は自殺とみて捜査を進めています。 』
今日がエイプリルフールだからといって、そんなくだらない嘘を誰が喜ぶのだろうか。
なんて大掛かりなドッキリだと半ば信じられない気持ちで葬式の日を迎えた。しかし、白い箱の中に小綺麗に整えられた彼女を見て、これが現実だと理解する。
『ほんとに自殺なのか?信じられるかよ…。』
莉子と若葉は小さな頃からいつもと一緒だった。
お互いの悩みは打ち明けられる仲だったので、莉子のことはなんでも知っていた。
莉子自身、クラスメイトとも仲が良かったし、部活動でも先輩から可愛がられていた。
そんな莉子が自殺なんて有り得ない。
ぐっと唇を噛み締めて走り去る。
葬儀場の外は、若葉の涙を嘲笑うかのように青空が広がっていた。
莉子と何度も歩いた土手道を走り抜け、丘の上の小さな公園を目指す。
特に、満開の花が咲く大きな桜の木が2人のお気に入りの場所で、そこに行けば莉子に会える気がしたからだ。
公園へと繋がる階段に辿り着いた若葉は、大きく深呼吸をして一気に掛け登ろうとした。
その瞬間、激しい目眩に襲われ、ぐらりと体が傾く。
桜の花びらがはらはらと舞い落ちる。
『なんなんだよ、こんな時に…。 』
必死に手を伸ばすが、若葉の意識はそこで途切れた。
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