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内部対立
「輪廻転生を制御できると本気で考えているの?」
アドニスはページを繰りながら頭を抱えた。サジタリオの教義を具体化する手段など現段階で何一つない。実現につながる技術的な概念やヒントすらも存在しない。
強いてあげるとすれば、通り魔的な事故死によって人生が清算され、不遇の対価として薔薇色の人生が再スタートするという基本構造だ。
人生を強制終了させられた彼ないし彼女の死因は、寿命を采配する「神」の過失に拠る者とされる。
「ええ、まったく都合のいい連中ですわ」
キースは言い捨てた。心底、軽蔑している心中がうかがえる。そのような都合の良い罪人を形而上に用意したところで、自己責任という債務を粉飾したに過ぎない。
「サジタリオ教団は異世界転生の存在証明を求められて内部分裂したのよね?」
「ええ、フェルミのパラドックスに気づいた信者が指導部に詰め寄ったんです。現に転生の成功者がいるならば、この世に一人もいないのはおかしい。連れて来いと」
その素朴かつ自然な疑問が引き金となって亀裂が一気に表面化した。
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