内部対立

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パサ、と重いファイルが閉じられた。 「だいたい状況は把握したわ。その厄介な希死念慮者の生き残りとやらは、いまだに転生の成功者を探索しているのね?」 「そうです。彼らは自爆した指導部が秘儀を用いて異世界に逃亡したと信じています」 「そして、自分達を掃討しに来ると?」 「ええ」 キースはテーブルに地図を広げた。残党結社(クラスター)は世界中に散らばっている。それは意外な偏りを見せていた。 通常、速やかな人生の終了を願う者は戦争や犯罪や貧困に悩む人々であると思われがちだ。だが、実際は違った。 経済的に余裕のある人間が己の存在意義に疑問を感じて、想い悩む。多くは家庭内や職場で孤立した者たちだ。広く浅い付き合いは軽薄で享楽的な生き方を身につけないと難しい。 真面目人間は表面的なつきあいから落伍する。そして内向したり非現実に逃避したりする。 「安永栄一の長男もその一人です」 日本という諸島をキースは指さした。 「バラバラ殺人事件の捜査開始ってわけね」 アドニスは純白の翼を広げて気流に乗った。富士という最高峰が新雪を戴いている。それを右目にみながらゆっくりと高度を下げていった。
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