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神罰の執行
サジタリオ教は異端で、転生という概念に真っ向から対立しており神罰の執行を使命としている。そのため、神でありながら人間の生死を自由に操作できないというパラドックスに陥っている。神は絶対者であってはならないのだ。
アドニスとは神になる以前からの友人。お互いの境遇には深く共感するものがある。アドニスにとっての良き理解者であり相談相手。普段は敬語を使ってるがプライベート時は崩れがち。また時々うっかり者。
神としての能力は空間認識、因果律改変能力。神具をあつかえるのは下位クラス。上位の神からは「大局が見えていない、考えが浅すぎる」などと叱責される始末。しかし一方で、そうした凡俗からの脱却を望んでいる一面もあるため、「もっと視野を広く持てるようになれば大物になれる」という評価を得ている。
神は万物を創造できる全能である。それゆえに誤謬の入り込む余地はないと信じている。
「わたしたち、神と天使の関係なんてその程度のものだわ」とアドニスに語ったことがある。しかし同時に、「だから人間は面白いんだけどね」という皮肉も忘れない。「人間は万物の霊長である」と豪語するほど強靭な意志を持ちながらも矛盾に満ちた複雑な精神構造を内包している存在こそ、神にとって興味の対象なのだ。
転生を司るサジタリオ教団を快く思っておらず神界のパワーバランスも微妙に揺れ動いている 。アドニスはこめかみを揉んだ。「
~あたしは、えにしを利用して悪をとことん追う追撃天使よ。な~んでこんな対立構造に板挟みされにゃならんのかしら」
アドニスは詰むと時々可愛らしい人間の女子高生に変身して下界に顕現する。そして屋台の味噌ラーメンをおかわりするのだ。どんぶり鉢を重ねて「プハーっ!」といい、制服スカートのホックを緩めて白い下着を見せるさまはとても乙女とは言えないが、羽目を外さないと雁字搦めの関係性から柔軟な脳を解放できないのだ。そして、替え玉を3つも食えばだいたい閃きが得られる。
キースはアドニスの肩に手を置いて慰めの言葉をかけた。
「サジタリオ教団の教義によれば、転生は神の過失による事故であるとされています。つまり、彼らは転生によって神から解放されたと信じています」
「そんなのこじつけじゃない」
アドニスは腕組みをして鼻を鳴らした。
「ええ、ですが、現に転生の成功者は存在します」
キースは地図を広げた。
「サジタリオ教団は転生のメカニズムを解明するために分派しました。それが安永栄一の両親が率いる『転生会』です」
「じゃあ、この集団が転生に成功したのね?」
「いいえ、彼らは転生の秘儀を秘匿したまま行方をくらまし、その後、転生会の母体となったのです」
「…………」
アドニスは眉間にしわを寄せた。
「なぜ?」
「わかりません」キースは首を振った。「彼らは異世界に逃亡したと本気で信じています」
「でも、それっておかしくないかしら?」
アドニスは顎を撫でた。
「ええ、そうですね」
キースはうなずいた。
「そもそも、異世界が実在するかどうかさえ怪しいのに、どうして彼らは確信を持ってるの?」
「彼らが主張する異世界は、おそらく天国でしょう」
「なに、天国って?」
「死後の世界、いわゆるあの世と呼ばれる場所です」
「ふーん」
アドニスは目を細めた。
「地獄ってあるの?」キースは眼鏡のつるを押し上げた。
「もちろんあります。地獄の釜は煮えたぎっています。堕天する神は多いのですよ」
「それは知らなかった」
「まぁ……そうでしたか。いえ、わたしはてっきり、天上界から地獄は遠い場所にあると思い込んでいただけですの」
ふたりとも「ぷしゅー」と煙を吹いて赤面した。
サジタリオ教団が「死後は転生しないで楽園に召されると約束されている」と主張している根拠はこの辺にありそうだ。
アドニスは顔をしかめ、うなった。「転生は人間に有利過ぎるわね」
「ええ、天上界で定められたルールが破綻してしまします」
キースは同意した。
「天上と地獄が対等である以上、両者を天秤に乗せる必要があるのに」
「ええ、その通り。でも残念なことに天上界には、転生が善か、否か、を論証するための材料が不足しています。証拠が無いのでは、いくら論理を積み重ねたところで空虚なのです。これは非常に厄介な問題と言えましょう」
神は絶対的存在でありつつ、その判断には恣意的なものが入る余地があり、ゆえに人間的な苦悩や矛盾を抱えている――というアドニスの言説が裏打ちされてしまったことになる。
「これでは、転生そのものの是非を神が論じることすら難しいことになります。なぜなら、転生のシステムを設計したのは神ではないからです。設計者不在のプロジェクトにおいて、その妥当性を問う術は無いからです。しかし――」
アドニスは腕を組んだ。
「だが?」
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