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「にゃー」
「おやまあ、大きな声で鳴いて。ニャーコは腹が減ったのかい」
ばあさんはそう言うと、私の皿にご飯を乗せて、その上から味噌汁をかけた。
お腹は減ってない。外に出れば獲物はいくらでもいるんだから。
「なーん」
何度そう言っても、ばあさんは分かってくれない。毎日私の皿に、何か食べ物を入れてくれる。それはばあさんの朝ごはんと同じものだったり、時にはカリカリした猫用の餌だったりもする。
物心ついたときから私はこの家に、ばあさんと二人で住んでいた。好きなときに外に出れるようにと、縁側のサッシは一か所だけ、いつも細く開けられている。
車も滅多に通らない山里には、泥棒なんて来やしない。まして猫が外を歩いていても、文句をいう人などいない。
◆◆◆
私は猫だ。
どうしてこの家に住むようになったのかは、覚えていない。ばあさんはずっと一人暮らしだった。
「ニャーコが来るよりもずっと前に、連れ合いが遠くへ行ってしまってねえ」
それはどこかへ行ってしまったという意味なのか、それとも死んだということなのか。私にはどうでもいいことだったが、ばあさんにとっては大事な話なんだろう。幾度となく私にそう言った。
ばあさんには息子が二人いて、孫が何人かいる。みんな遠くに住んでいるから、滅多にこの家には来ない。
それでも孫が小さかった頃はまだ、年に数回は家の中が賑わった。私にとってそれは、子供たちに追い回される、迷惑な時期だった。ばあさんは忙しそうにご飯の支度をして、ついでに私にもいつもより少し豪華なご飯を出してくれた。
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