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 家の周りをぐるっとまわって、それから近所の家を一軒一軒覗き、棚田で蛇と戦って、最後に下の村の猫たちを威嚇してからまた家に帰る。それが私のいつもの見回りのコースで、今日も村は平和だった。  昼になり、ばあさんは今日もご飯を用意して、私を呼んだ。 「ニャーコ、ニャーコ、お昼だよ」 「なーお」  私は外でちゃんと食べてきてるんだから。何度言ってもばあさんは分かってくれないな。  人間よりも猫の方が賢いから、人間は猫の言葉を理解できないんだろう。それは仕方のないことだ。私が分かってあげればいい。 「ニャーコ、聞いておくれ。来週は久しぶりに、息子が孫を連れて来るんだよ」 「にゃー」 「孫ももうすぐ結婚するんだと。曾孫が生まれたら、またこの家も賑やかになるのかねえ」 「なーん」 「今年はトマトもキュウリも、少し多めに植えておこうかねえ」  今でも野菜は余るほどだが、ばあさんがそうしたいなら好きにすればいい。余れば少しくらいはタヌキに分けてあげようか。  ガタン。  午後の散歩に出かけようとしていた私の耳に、いつもと違う音が飛び込んできた。 「う、うう……」  慌てて振り返ると、ばあさんが台所の床の上に倒れている。 「にゃーっ、にゃーっ」 「うう……」  どんなに呼びかけても、唸るだけだ。  ばあさんから不吉な匂いがする。死が近寄ってくるような、そんな匂いが。  だめだ。ばあさん、しっかりして! 孫が久々に遊びに来るんだろう。起きて!  呼びかけて、舐めて、思い切って噛んでみてもばあさんは起き上がらない。  こんなときって、どうすればいいんだ。  そうだ!  人間を呼ぼう。 「にゃーお、にゃーお」 「あら、猫の鳴き声?」 「いや、気のせいだって。今日は風が強いからなあ」 「にゃーお、にゃーお、にゃーお」  呼んでも呼んでも、隣の夫婦は出てこようとしない。ああ、人間の言葉が使えたら。今だけでいいので人間の言葉が!  ばあさんを助けてやって!  誰か! 「にゃーーーーーっ」  私は力の限りに叫んだ。 「やっぱり何か聞こえる気がするんだけど」 「隣の柿谷(かきや)のばーさんが呼んでるんじゃないか?」 「えっ? そうかしら? だったらちょっと見に行ってみましょう」 「ばーさんももう、いい歳だからな」  隣の夫婦がばあさんの家を覗き、大きな声を上げる。  嫁の方が慌てて電話をするために家に帰り、それから小さな村は大騒ぎになった。  下の村からたくさんの人が来て、ばあさんは車で運ばれて……そして家の中は静まりかえった。
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