私と彼と君

11/11
前へ
/11ページ
次へ
 暁君は飛び抜けて足が速いわけではなかったけれど、一生懸命にどの種目にも取り組んでいるのが表情から分かった。私と敬一さんは子供に返ったように大声で応援した。もちろん写真もビデオもしっかり撮った。  汗だくになって私たちのもとへやってきた暁君を笑顔で迎える。 「お疲れ様。お弁当食べましょ!」 「うん。お腹すいた」  重箱を開くと、暁君の目が丸く見開かれた。 「なんで?」 「どうかしたのか、暁?」 「俺の好物ばっかり……」  私は心でガッツポーズをした。 「「「いただきます!」」」  手を合わせて食べ出す。 「美味しい……」  暁君が呟いた。私と敬一さんは顔を見合わせて笑う。その時、暁君の瞳からぽたりと涙が落ちた。 「美味しい」  再び言った暁君に、私も胸がじんとして目に涙がたまるのが分かった。 「あの、さ。美由希、さん」  私は初めて名前で呼ばれたことに感激しながら、 「な、何?」  と応える。 「こないだはこめん。俺、本当は妹、欲しい。……でも、すぐじゃなくて、しばらくはこのままで、いたい」  私は再び敬一さんと顔を見合わせた。 「暁、妹とは限らないけど……」  そんなことしか言えない敬一さんの手を私がパチンと叩くと、 「じゃあ、どっちでもいい」  と暁君は笑って言った。私は自分の目から涙が溢れるのを止められなかった。 「分かった。まずは暁君にありったけの愛情注いで、それで子供ができたら、絶対平等に二人とも大切に育てるから」  私の言葉に、 「本当に?」  と暁君は真剣な目をして訊いた。 「本当に。指切りげんまんしてもいいよ?」  暁君は泣き笑いを浮かべて、 「恥ずかしいから指切りはいらない」  と言い、私は涙を流しながら笑い、敬一さんも目頭を押さえて微笑んだ。  私はこの日を生涯忘れないでいようと思った。これからどんなことがあっても、この日を思い出して私は暁君を愛し続けようと。           
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加