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暁君は飛び抜けて足が速いわけではなかったけれど、一生懸命にどの種目にも取り組んでいるのが表情から分かった。私と敬一さんは子供に返ったように大声で応援した。もちろん写真もビデオもしっかり撮った。
汗だくになって私たちのもとへやってきた暁君を笑顔で迎える。
「お疲れ様。お弁当食べましょ!」
「うん。お腹すいた」
重箱を開くと、暁君の目が丸く見開かれた。
「なんで?」
「どうかしたのか、暁?」
「俺の好物ばっかり……」
私は心でガッツポーズをした。
「「「いただきます!」」」
手を合わせて食べ出す。
「美味しい……」
暁君が呟いた。私と敬一さんは顔を見合わせて笑う。その時、暁君の瞳からぽたりと涙が落ちた。
「美味しい」
再び言った暁君に、私も胸がじんとして目に涙がたまるのが分かった。
「あの、さ。美由希、さん」
私は初めて名前で呼ばれたことに感激しながら、
「な、何?」
と応える。
「こないだはこめん。俺、本当は妹、欲しい。……でも、すぐじゃなくて、しばらくはこのままで、いたい」
私は再び敬一さんと顔を見合わせた。
「暁、妹とは限らないけど……」
そんなことしか言えない敬一さんの手を私がパチンと叩くと、
「じゃあ、どっちでもいい」
と暁君は笑って言った。私は自分の目から涙が溢れるのを止められなかった。
「分かった。まずは暁君にありったけの愛情注いで、それで子供ができたら、絶対平等に二人とも大切に育てるから」
私の言葉に、
「本当に?」
と暁君は真剣な目をして訊いた。
「本当に。指切りげんまんしてもいいよ?」
暁君は泣き笑いを浮かべて、
「恥ずかしいから指切りはいらない」
と言い、私は涙を流しながら笑い、敬一さんも目頭を押さえて微笑んだ。
私はこの日を生涯忘れないでいようと思った。これからどんなことがあっても、この日を思い出して私は暁君を愛し続けようと。
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