私と彼と君

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 暁君との出会いを思い出して、鏡の中の私は不安そうに私を見つめていた。ウエディングドレス姿の自分をまじまじと見て、小さなため息をこぼす。まさか本当に自分が着ることになるなんて。 「あんた、何ため息なんてついてるの? もしかして、マリッジブルーってやつじゃないでしょうね?」 「だ、大丈夫、たぶん」  綺麗にメイクしてもらい、髪もアップしてもらったけれど、もう少し若かったらもっと見栄えしたかな。それでもヴァージンロードを一緒に歩いた父は、 「我が娘ながら綺麗だ」  と、目を潤ませていた。私はそんな父にありがたさと申し訳なさでいっぱいになった。  父とゆっくり敬一さんのもとへと歩いて行く。私はこれから一人ではないのだと思い、複雑な気分になった。一人きりの気楽さが好きだった。それがなくなる。それはかなり残念で不安だ。でも、これからは敬一さんが私の隣にはいる。不倫をしていた男なのだから、これからも浮気をされるかもしれない。それなのにどこか安堵感を覚えている私がいる。  そして。  私は今日から産んでいない暁君の母親になる。もしかしたらそのことが最も私の心の中で大きなことかもしれない。不安と、それに負けないほどの責任が私の肩にどっしりとのしかかってくる。  外国人の神父の前でタキシード姿の敬一さんが笑顔で手を差し出した。その敬一さんから一番近い席に暁君がいて、同じくおめかしして神妙な顔つきでこちらを見ていた。 「綺麗だ。やっと一緒になれるね」  敬一さんの言葉に、今更視界がぼやけた。それを悟られないように私は微笑む。さようなら、一人の私。本当にこれでいいのか分からないけれど、最終的には自分で結婚を決めたのだ。私は新たな道を踏み出した。
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