私と彼と君

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 とりあえず寝室は片付けた。暁君の部屋がどんな状態か気になるけれど、見られたくないだろうからパスする。キッチンとリビングは一日では片付けられないほどだったので、少しずつ綺麗にすることにした。  翌日朝食を作るために早起きして一階に下りていくと、キッチンで暁君が料理をしていた。   私の顔を見て、 「あ、そうか。料理しなくていいんだっけ」  と暁君は言ったけれど、 「ここまで作ったから最後まで作る」  とお味噌汁と玉子焼き、キャベツの千切りを作り終えるとテーブルに並べた。 「慣れてるのね」  私の言葉に、 「母さんはほとんど作らなかったからね」  と暁君は無表情に答えた。  どういう意味だろう? 敬一さんの前の奥さんは専業主婦だったと聞いている。 「これからは私が作るから」 「でも、あんただって仕事行くんだろ?」  まだ「あんた」と呼ぶのね、と眉間にしわが寄る。  いけないいけない。子供を怖がらせちゃダメよね。  私は懸命に笑顔を作った。 「でも、暁君にも学校があるでしょ? ご飯作って学校行くの、大変じゃない」  私の言葉に暁君は私の表情を窺うような上目遣いをしながら、 「……まあ」  と頷いた。 「大丈夫。朝は私が作るから」  私は言ってから、しまった、と思った。この言い方じゃ。 「じゃあ、夜は俺がってこと?」  やはり暁君はそう言ってきた。 「夜もなるべく私が作るようにはするけど、遅くなる時は暁君もお腹すくでしょう? そういう時はお願いしてもいい?」 「分かった。曜日ごととかでも構わないけど?」 「まあ、それはやってみて私が無理そうだったら頼むかもしれないけれど、とりあえずまだいいわ」  暁君は、 「最初から無理しても続かないよ?」  と口の端を上げて笑った。  ううむ。やっぱり大人びた子だ。  そこへ敬一さんが階段を下りてきた。 「今日は暁君に作ってもらっちゃった。明日からは私、作るから」  私の言葉に、 「作ってもらえるものは何でも美味しい。暁、今日もありがとうな。さあ、皆んなで食べよう」  と敬一さんは言って、私は暁君相手に複雑な気分になったのだった。
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