私と彼と君

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 結婚して何が最も変わったかと言えば、家事の手抜きができなくなったことだろう。一人の時は適当なご飯を食べることも多かったが、敬一さんと育ち盛りの暁君がいるのだから手は抜けない。仕事の合間にメニューを考えることが増えた。それから敬一さんと二人の時間は確実に減ってしまった。家に帰れば暁君がいるので、敬一さんと仕事が終わる時間が近い時は待ち合わせして一緒に帰ることにしている。それでも二人っきりには環境的になれない。それは正直寂しくて、意外と乙女な自分がいることに驚いた。  一番大事にしていた一人の時間はほぼゼロになった。けれど慣れない忙しさに紛れてそれを嘆いている暇がない感じだ。暁君に関しては予想より遥かに手がかからないのに感動さえしている。自室に籠っている時何をしているのかは気になるが、リビングにいる時はゲームをしているのにも関わらず気配が感じられないほどおとなしい。その代わり、敬一さんがいない時は私と会話をすることもほとんどない。そのせいで同じ部屋にいても一人でいるような気がする時も多々ある。私にとっては楽といえば楽なのだが、暁君は無理をしていないだろうか。 「ねえ、ゲームしてる時、もっと声出してもいいのよ?」  私は暁君の子供らしくないおとなしさが気になって、敬一さんがゴルフで私と暁君二人の時にそう話しかけてみた。すると暁君は、 「うるさいと怒られるから……」  と瞳をうろうろさせて言った。 「子供だもの。多少うるさいのは当たり前じゃない?」 「母さんはうるさいの好きじゃなかったんだ」  暁君は言って、 「あ、前の母さんは」  と付け加えた。 「ふーん。お母さん厳しかったの?」 「……自分の邪魔になるのがとことん嫌いな人だった。俺のことも多分嫌っていた」  いつになく悲し気に暁君が言ったので、私は驚いて、 「まさか。自分の子供だもん。嫌ってなんか……」  と返したけれど、暁君は無言で首を横に振っただけだった。私の中で敬一さんの前の奥さんに対するイメージが段々悪くなっていく。食事を作らないだけでなく、自分の子供にこんなことを思わせるなんて。  私は怒りにも似た気持ちが沸きあがるのを感じた。私は暁君にこんな思いをさせるような母親にはなりたくない。むちゃくちゃ愛されてると思ってほしい。私は敬一さんも暁君も幸せにする! 「私は前のお母さんじゃないから。あまりにうるさい時は注意するけれど、遊ぶときは楽しく遊んでいいんだよ?」 「……わかった」  暁君はなぜか緊張気味にそう答えて、恐る恐るといった感じでゲームをしながら声を出し始めた。 「い、いけ! そこ! あ、よけろ!」  私はそんな暁君を微笑ましく見ながらも、 「あ、でも、ゲームは一日一時間前後のキリがいいところまでね」  と付け加えることは忘れなかった。そしてリビングの片づけをしながら暁君のゲームを盗み見て、一緒に声を出して応援したのだった。
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