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「私と出会ったのは……」
「元妻が家事をしなくなって、口も聞かなくなってしばらくした頃だよ。正直、僕も精神的に参っていた。暁には母親が必要だから離婚をしない方がいいと思う気持ちと、結局、暁に家事を押し付けているのだから妻はいなくても同じなんじゃという気持ちと」
敬一さんは思い出すのも苦しそうに言った。
「だから現実逃避をしたのね。私に」
「そうだね。初めの頃は逃避だったかな」
そう言って苦い笑いを浮かべた敬一さんを私は責められなかった。
「いいの。私もずるいの。敬一さんの前に付き合っていた彼といい別れ方をしなかったから、普通の恋愛をするのが怖くて、不倫ぐらいがちょうどいいなんて思ってたのよ。敬一さんの家庭のことを真剣に考えもせずに」
私の告白に、
「そうなの?」
と敬一さんは意外そうに私を見た。
「結婚もね、正直したいとは思ってなかった」
「ええ?!」
敬一さんが焦った声を出した。
「敬一さんがまさか本当に離婚して私と結婚するなんて……。しかも、自分がいきなり小五の男の子の母親になるなんて、私の人生計画にはなかったことなの」
「じゃあ、何で結婚してくれたんだい? 後悔してるんじゃないのかい?」
敬一さんの不安そうな声に、
「正直なところ、自分でもなんで最終的に結婚を選んだのか分からない。前日まで実感がなくてこのまま逃げ出そうかなんても思ってた」
私は肩をすくめた。
「でもね。もし、結婚するなら敬一さんがいいなとも思ったの」
「そうなのか」
「敬一さん。私は結婚したこと、今は後悔してないから安心して」
私は敬一さんの目を見つめて言った。
「なら良かった」
「でも、結婚したからには敬一さんに約束して欲しいことがあるの」
「なんだい? なんかどきどきするな」
敬一さんは上半身を起こして、私の方をまっすぐ見た。
「私から逃げないでほしい。前の奥さんとはたぶんもっと話し合うべきだったのよ。私には何か不満があるのならちゃんと伝えてほしい。それから、もう不倫はやめてね」
「前向きに関係を続けていきたいってことだね。了解したよ。大丈夫。不倫もしない。君と結婚できたのだからする理由がない」
私は、「良かった!」と敬一さんの首に腕を回した。
「そうそう、僕は美由希との子供も欲しいけど、美由希はどう思っているんだい?」
「私は……。まず暁君を幸せにしたいの。自分の子供を持つことで、暁君への愛情が減るなら要らない。でも、暁君が妹か弟が欲しいと思っているのならそれは叶えたい」
自分でも驚くような言葉が口から出た。でも、私の本当の気持ちだった。
「美由希がそれほどまでに暁のことを考えてくれてるとは思ってなかったよ。ありがとう。でもなんだか暁に焼けるな」
そう言った敬一さんの唇に私は触れるだけのキスをした。
「暁君を大切にしたいと思うのは、敬一さんの子供だからよ。それを忘れないで」
私の言葉に敬一さんは私を抱きしめた。
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