私と彼と君

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*** 「来月は運動会だったな」  三人で朝食を食べるのに少しずつ慣れてきた頃、敬一さんが言った。 「そういえばプリントが来てたね。応援しに行かなくちゃね」  私の言葉に暁君は顔をしかめた。 「もう五年だし、いいよ」 「じゃあ、お昼はどうするの?」 「別に何か持たせてもらえれば勝手に食べる」  暁君はぼそぼそと言った。私は、 「そんなの駄目よ! 私、お弁当作って敬一さんと一緒に応援に行くから!」  と息巻いて言った。敬一さんはそんな私の様子に吹き出し、暁君は困ったように赤くなった。 「それと……」  私は敬一さんの顔色を一度窺うように見て、暁君に向き直った。 「何?」 「あのさ、暁君は兄弟、欲しい?」  私の言葉に暁君の顔から表情が消えていく。私はそんな彼の反応に戸惑った。 「あ、その、いらないならそれでいいのよ? 暁君の意見も聞いてみたいなって」  私が暁君の目を恐る恐る見つめて言うと、暁君は私を睨みつけるような目をした。 「そうだよな。結婚して、これでやっと好きなように出来るわけだ。大人ってわざとぼかした風に言うけど、やることはセックスだろ?」  暁君の言葉に私は目を見開く。私も敬一さんも言葉が出なかった。 「俺は! 俺は!」  暁君はそこでいい淀み、拳を作って泣きそうな顔をした。 「勝手にすれば! どうせ俺なんてほったらかしにされるだけだ!」  切ない暁君の叫びに私は胸が痛んだ。暁君はそのまま席を立って、自室に篭ってしまった。  残された私と敬一さんはしばらく無言で朝食を食べた。 「あんな反応を暁がするなんて」  敬一さんがぽつんともらす。 「子供作るのやめましょう。暁君を大切に育てられればそれでいいじゃない」  私はそうはっきりと言った。 「悪いな。美由希」 「誰も悪くないよ」  暁君を怒らせたままなのが気になったが、二時間後、彼は普通にリビングにやってきて、 「ゲームしていい?」  と訊ねてからゲームをしだした。  暁君が何を思っているのかは分からず終いだったが、私たちはそれきり子供の話題に触れることはしなかった。  その日から私は色んなメニューを作っては、こっそりと暁君の反応を伺うようになった。暁君を傷つけてしまったのだ。挽回しなくては。暁君幸せ計画の第一弾として、暁君の好きなものをたくさんお弁当に入れて、「美味しい」と言わせることが私の目下の目標になった。そしてできれば私に対する「あんた」という呼び方をせめて「美由希さん」に変えたい。  私は暁君とはまだギクシャクした毎日の中で、それだけを胸に料理に打ち込んだ。
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