私と彼と君

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 いつも使っているビジネスホテルの一室。  情事を終えた私たちは、時計を見ながら服を着ていた。  先にスーツを着終えた彼が、私の背中を指でなぞっていたずらしてくる。 「もう、敬一さんたら」  私が振り返って言うと、敬一さんは私の唇をふさいだ。 「だめ。またシャワー浴びないといけなくなるでしょ?」  敬一さんは名残惜しそうに私から離れた。そして、 「もう少しで離婚できそうなんだ。そしたら結婚してくれるね、美由希?」  と言った。私はいつものように、 「もちろんよ、敬一さん。待ってるから」  と笑顔で答える。  会うたびに交わされる言葉。でも、私は敬一さんが好きだけれど、この言葉は信用していない。どうせ口だけだと思っている。  私だって嘘をついている。私には結婚願望がない。仕事も今のところうまく行っているし、何より一人の時間が私は好きなのだ。恋愛はスパイスでしかない。こうやってたまに会うくらいがちょうどいい。奥さんには悪いと思っている。なるべくなら他人を悲しませるような恋はしたくなかった。けれど恋は突然で訳もわからず落ちるもの。私は敬一さんに惹かれている。敬一さんがどれだけ本気かは分からない。けれども、敬一さんと奥さんは私と付き合う前からいい関係とは言えななかったようだ。  敬一さんと付き合いだしてから三年が過ぎている。敬一さんが離婚を口にしてからは一年。ほらね。きっと離婚する気なんてないのだ。  でも、私はその方がいい。ごめんなさい。これ以上は望まないから。だから、このままの関係が誰にも悟られることなく続きますように。
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