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●Magic Time
──午後10時32分。
外は真っ暗。
部屋の窓から見える繁華街のネオンサインが、夜の闇に対して月明かりみたく懸命に抗っている。
好きなドラマは、見終わった。
お風呂も入った。
(形だけではあるけれど)、宿題もどうにかやり終えた。
しかし私は、勉強時より難しい顔を浮かべたまま、右手に持っているスマートフォンと、ただただにらめっこを続けていた。
「ダメだ、書けない……」
私は独りごちると、机に突っ伏した。
頭にイメージは、浮かんでいる。
おぼろげではあるけれど、ストーリーも見通しが立ってきた。
後は、それを文章に起こしてスマートフォンに打ち込むだけなのだ。
けど、睡眠不足から引き起こされた脳の不調は、数少ない国語能力を私からごっそりと奪い取っていき、私に「一文も書けない」という状況をもたらしていた。
「もう、昨日瀬菜とカラオケ行くんじゃなかったよー」
唇を尖らせながら私は言うと、先程まで手に持って凝視していたスマートフォンを机の上に置き、その液晶画面を俯瞰するように眺める。
『かりん 「氷の心を持ったお姫さま・下巻」』
スマートフォンの液晶画面に写し出された、Web小説の更新画面。
「かりん」というのは、私の本名である竹村花凛から取った筆名である。
去年、中学の同級生である瀬菜の影響を受けて、自分でもWeb小説を書き始めてみたんだけど、流行りの暴走族モノである事が奏功したのか。
上巻を完結させると同時に、書き上げた小説のPV数は急上昇し、サイト内でランキング一位を獲得した結果、私はちょっとした人気作家となっていた。
「凄いじゃん、花凛!」
私の人気ぶりをサイト内で知った友人の瀬菜は、自分の事のように喜んでくれて、祝福のLINEやら、Twitterで賛辞のリプライを送ったりしてくれたけど、いやいや。
瀬菜、アンタはPV200万とか、私以上の
人気作家ですから……。
「もう、寝ようかな」
私は再び机に突っ伏すと、机の上に置かれたままのスマートフォンを、ぼんやりとした状態でしばらく見つめる。
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