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「昨日ね、全然書けそうにないから、気分転換でコンビニに行ったのね。
そしたら、凄いイケメンがそこで働いていたの」
水道の蛇口を勢いよくひねったみたく、私は快活に日奈子に対して切り出す。
「コンビニって、花凛が住んでるマンションの一階にある、あのコンビニ?」
私の言葉に、日奈子が視線を上にやる。
「うん、そう」
私は頷くと、すぐさま続きを語った。
「なんかね……、どうカッコいいって言えば、うまく説明出来ないんだけど、とにかく爽やかなのね。
レジが混んできた時に、その人ヘルプで入ってきたんだけど、凄い丁寧で、そんでお客さんを送り出すのが上手っていうか。
アタシ、小説でよくイケメンを登場させてるけど、あんなキラキラした感じのイケメンじゃなくて、ホント爽やかで誠実って感じの人だった」
「漠然としてるなぁー。ところで誰に似てるの?」
お互いに思春期であるからか、イケメンという単語に日奈子はすぐに食い付いてくる。
「誰だろ……」
日奈子の言葉に、私は顎に手をあて、ひと思案した。
「誰に似てるかは、ちょっと説明が出来ないんだけど……」
そして、答えが出なかった私は、代わりとしてこう返すと、「アラケーさん」について自分が言える範囲の事をあます事なく日奈子に対して語っていった。
「とにかく、爽やかなのね。
そんで、誠実。
昨日、初めてその人を見たんだけど、仕事が凄い出来るって感じなのに、それでいばる感じの人じゃなく、出来ない人を黙って助ける人、っていうか。
たとえて言うなら、ウチらがお米とか、何か重い荷物をすんごい苦労して運んでいるとするでしょ。
そしたら、後ろから『そんな、無理しちゃダメだよ』って言ってきて、代わりに運んでくれる優しいお兄さん、って感じ」
「うーん、分かったような分からないような……」
私の説明に、日奈子は苦笑した。
「でも、爽やかなのは、分かった。
どんな感じかは分からないけど、『君に届け』の風早くんを大人にしたような感じなのかな?
つーか、花凛作家なんだから、その辺うまく説明してよ。
さっきの説明じゃ、『爽やか』くらいしか伝わってこないよ」
「いや、作家っていっても、Web小説を書いてるだけだしね……」
日奈子の言葉に、私は肩をすくめた。
「第一、普通の小説とか殆ど読まないし。
『ハリーポッター』くらいだもん、マトモに読んだの。
だから、作家だからうまく説明しろ、とか言われても、語彙力無いからうまく説明出来ないよ」
「花凛には、ノーベル賞とか芥川賞とか取って欲しいんだけどなー。
そしたらアタシ、周りに自慢出来るのに。
これ、ウチのクラスメイトですよ、ってね」
「いや、無理だから、そんなの絶対……」
ディズニーランドみたく、華やかな未来を想像する日奈子の言葉に、私は冷静に突っ込みを入れた。
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