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その時、教室の引き戸が、ガラリと音立てて開かれた。
私と日奈子は招かれたように教室の引き戸に視線をやると、そこには目の周りをアザで青くさせた、渡辺すばるがいた。
「堂々と遅刻してきてるよ、渡辺の奴」
白けた視線を渡辺すばるに向けながら、日奈子が言う。
「そういや、昨日。
すばるとも、コンビニで会ったのね」
同じく、私も渡辺すばるに視線をやりながら、言葉を述べる。
「けど、アイツすぐに連れ去られてたな。
首根っこ、掴まれて。
あの……、入学して一ヶ月くらいで先生ぶん殴って、学校やめた奴いたじゃん。
名前覚えてないけど、誰だっけ」
「菅野」
滞る私の思考が出す問題に、日奈子がクイズの解答者のごとく答えを出してくれる。
「あっ、そいつだ。菅野」
淀みなく思考が流れ始めた私は、昨日あった出来事を日奈子に対して語っていった。
「その、菅野にすばる。
お前連絡してこなかっただろ、とか因縁つけられて、コンビニから連れ出されたのね。
すばるのあのアザ、多分その後に菅野から殴られてついたヤツじゃないかな?
もっとも、アタシがコンビニから出た時には、菅野もすばるもいなかったから、どこでどういうやり取りになったかは分からないけど」
「菅野みたいな奴と付き合っても、単にパシリに使われるだけだと思うんだけどねー」
日奈子は、既に着席している渡辺すばるに聞こえるような感じで、心持ち声のボリュームを上げながら返答する。
「大体菅野とか、どうしようもないクズじゃん。
花凛の小説に出てくるような、頼れるイケメンじゃないし、弱いものイジメとかカツアゲして、不良ヅラしてる奴でしょ。
殴られたのか、虫歯を治す気がないのか分かんないけど、あの菅野の前歯。
ずっと空いたままだったし、あんな奴とつるんでても絶対いい事ないって」
ケラケラと笑い声を交えながら日奈子が言った、その時であった。
渡辺すばるが、私達二人の方を睨み付けながら、「菅野クンの悪口はやめろ」と、低い声で告げた。
「おー、こわ」
渡辺すばるの剣幕に気圧された日奈子は、肩をすくめる。
同時に、先生が教室に入ってくる。
「じゃあね、花凛」
日奈子は手を振り、私の前から立ち去ると、軽快な足取りで自らの机に着席した。
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