●Magic Time

2/9
前へ
/373ページ
次へ
しかし、寝る訳にはいかなかった。 前述したように、私は(自分で言うのは、ホントおこがましいんだけど)サイト内ではちょっとした人気作家なのである。 たとえ、1日でも更新を休んだら、読者さんから 『Twitterなんてやらずに、更新してくださいよ!』 『今日、更新無かったんですけど、どうしたんですか?』 といった、更新を催促する声がTwitterでのリプライだの、サイト内での感想といった形で、何かしら入ってくる。 前述した友人の瀬菜に至っては、5ちゃんねるに自分の事を散々書かれたらしく、こっちがなだめるのも躊躇するくらい、Twitter内でわめき散らしていた程だ。 ──たとえ、1ページでも書かなきゃ読者さんって満足しないんだよね。 思った私は、机の上に突っ伏したまま、おもむろにスマートフォンを手に取った。 しかし、書き出す文章が浮かばない。 睡魔が、営業を終了したスーパーのシャッターのように、私の脳内に幕を下ろしにかかっているからだ。 「ダメだ、ダメだ」 私は机から身体を起こすと、眠気覚ましとばかりにブンブンとかぶりを振った。 そして、壁に掛けられているセサミストリートの時計で時刻をそれとなく確認してみる。 ──10時45分。 知らぬ間に、10分近くも経っていた。 よく、漫画家が「スランプ」とか言って頭を抱えているシーンをおまけ漫画とかで描いてるけど、今の私はまさしくそれだろう。 「……炭酸、買ってこよう。 頭をスッキリさせる為には、それしかない」 思った私は立ち上がると、脱ぎ捨てていたパーカーとジャージを身にまとい、ポケットに500円玉を一つ入れ、自分の部屋を出た。 玄関への通り道であるリビングのドアを開けると、お父さんと弟が共にソファーで、芸人がMCをつとめているバラエティー番組を見ていた。 「どうしたんだ?」 風呂上がりなのか。 お父さんがTシャツと短パンといった格好で、テレビから視線を私に移し、訊いてくる。 「あっ、ちょっと下のコンビニに行ってくる」 「何時だと思っているんだ」 「すぐ、戻ってくるよ」 威厳ゼロの格好から発せられるお父さんの咎め立てに、私は淡々と言葉を返すと、玄関へと通じるドアノブに手をかける。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

213人が本棚に入れています
本棚に追加