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「りんちゃん、コンビニ行くの?」
すると、ソファーで寝転がっていた弟の祐哉が起き上がり、私に言葉を投げ掛けてきた。
ちなみに、「りんちゃん」というのは、花凛の「凛」から取った、弟独特の私の呼び名である。
「そうだけど」
私はドアノブから手を離すと、振り返り、返答する。
「じゃあさ、ジャンプ買ってきてくんない?
俺、買うの忘れてたんだ」
「明日にすりゃ、いいでしょ。
それにアタシ、今、500円しか持ってないんだよ」
「ジャンプ、買えるじゃん」
「ジャンプ買ったら、ジュース一本くらいしか買えなくなるじゃない。
どうしても買ってきて欲しいのなら、お金ちょうだい」
「中学生から金取るかね、普通……」
弟は立ち上がり、学生服のズボンに入れていた小銭入れから100円玉3枚を取り出すと、それを渋々といった様子で私に手渡した。
「……じゃ、このお釣りでチロルのきなこでも買ってくるか」
もらった100円玉三枚をジャージのポケットに入れると、呟くように私は言う。
「バカ、ふざけんなよ!
釣り返せよ、姉貴のクセにネコババすんのかよ!」
その私の独り言に、弟は露骨に憤りを見せた。
「姉をパシらせてんだよ。チロルくらいおごれや」
私は怯まず、応酬する。
「自分だって、ジャンプ読むだろ!
お釣り、パクんじゃねえよ!」
「たった、数10円だろが。それくらいおごれ!」
わめき散らす弟に私は捨てゼリフを吐くと、逃げるようにリビングを後にし、そのまま玄関のドアをくぐっていった。
「ったく、せっかくイケメンでアタシの小説に登場さしてやってるっていうのに、なんだよあの態度……」
ちゃっかりと、小説のモデルとしている弟の祐哉への悪態を私は独り言として呟くと、薄暗いマンションの通路を歩いていき、エレベーターへと歩を進めていった。
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