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エレベーター前に、到着した。
私は、[Alexandros]の「ワタリドリ」を鼻歌で歌いながらエレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押し、その着床を待つ。
栓を抜かれたタンクの目盛りのように、ゆっくりと4から1へ下降していく、階数表示。
私はエレベーターを降りると、エントランスを突き抜け、マンションにテナントとして入っているコンビニに入った。
「いらっしゃいませー」
入店するやいなや、レジから聞こえてくる、都会にありがちな人情味ゼロの挨拶。
その挨拶を耳にしながら、私は弟に頼まれた少年ジャンプを購入する為、書籍コーナーへと向かう。
先客が、既にいた。
塾帰りなのか、その男は学生服のまま、「アカギ」という名のコミックスを、脇目もくれずといった感じで読み込んでいた。
「すばる」
パーカーのポケットに手を突っ込みながら、私は学生服の男に言葉をかける。
「あっ、あぁ……」
すばるは顔を上げ、私に視線を向けると、声をかけられると思っていなかったのか動揺を露とさせた。
「アンタ、何やってんの?
塾、終わったんなら早く帰りなよ。
ネカフェみたいに、ここで漫画読むんじゃなくてさ」
「いや、この漫画。
初めて読んだんだけど、なんか面白いんだよ」
コミックスを片手に持ちながら、すばるは弁明する。
「知らねえよ」
私は肩をすくめた。
「っていうか、お前は何しにこんな時間にコンビニに来たんだよ」
すると、私に言われっぱなしで、我慢出来なくなってきたのか。
すばるは、未購入のコミックスを陳列棚に戻すと、私に身体を向け言葉をまくし立てた。
「もう、11時前だろ。
女がこんな時間にコンビニに来るとか、普通に考えて危ないだろ。
人に注意する前に、自分こそ何してるか考えろよ」
「どうも、頭がスッキリしないから、コンビニに炭酸飲料を買いに来ただけだよ。
すぐに帰るし、アンタは余計な心配しなくていいんだよ」
同級生である渡辺すばるに私は淡々と告げると、続きを口にした。
「そんで、ついでにジャンプを買ってこい、って弟に頼まれた訳。
つーか、制服のままのアンタに注意されたくないね。
一体、何冊ここでタダ読みしてんだよ。
こんなトコで漫画、読みふけってんじゃねえよ。
もし、顔見知りじゃなかったら、『キモ!』って心の中で呟いて、
『さっき、コンビニ行ったら、変なヤツが漫画を夢中になって読み込んでいた』
って、思わずツイートしてるトコロだよ」
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