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「袋、ご一緒でよろしいですか?」
青年が顔を上げ、私に尋ねる。
「あっ、はい」
極力平静をつとめながら私は返すと、購入した商品をレジ袋に入れていく青年のその姿をつぶさに観察していった。
ビターチョコレートのように、こげ茶色に染められた髪の毛。
切れ長の目、接する人間の心を安堵させる緩やかに上がった口元。
年齢は、20代前半といったトコロだろうか。
若々しく、それでいて凛とした大人の佇まいを見せている青年のその様は、私に切ない心の高鳴りを抱かせた。
「417円になります」
商品をレジ袋に詰め終わった青年が、顔を上げ、私に告げる。
「はい」
私は相槌を打つと、ジャージのポケットに入れていた500円玉を取り出し、カウンターの上へと置いた。
「500円、お預かりいたします」
ポンポンと、リズミカルにレジを打つ青年。
「83円のお返しです。
お待たせして、申し訳ありませんでした」
そして、そのリズミカルな流れを保ったまま青年はレジから小銭を取り出すと、私の掌に左手を添え、小銭を手渡してくれた。
「いえ、全然……!
こちらこそ、ありがとうございます!」
「客と店員」という、硬直した関係性から抜け出したいと思った私は、無理繰り返答をしてみたのだが、緊張のせいかその返答は全くと言っていい程、噛み合っていなかった。
すると、私の緊張を帯びた様がツボに入ったのか、青年は小首をかしげると、クスリと笑った。
そして、
「またのお越しを、心よりお待ちしています」
と、笑顔を保ったまま述べ、伸ばした右手で私を出口へと誘導した。
「は、はい」
私は後ろ髪を引かれるような思いを抱きながら、出口へと向かった。
その時、私の背中に店員二人の会話が聞こえてきた。
「助かったよ、アラケー」
「いえ」
声の感じと会話の内容から、「いえ」と返答した方が先程の青年であると思われた。
──「アラケー」って呼ばれているのか、さっきの人。
思いがけぬ形で、青年の愛称を知る私。
「……なんだか、ガラケーみたい」
そして、いかにも男の子同士が付けそうなその愛称に私は微笑すると、口元を上げたまま、コンビニの自動ドアをくぐっていった。
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