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ゆっくりとした足取りでマンションのエレベーターに乗り込み、私は帰宅すると、リビングにいる弟の祐哉に頼まれていた少年ジャンプを手渡した。
「いや、りんちゃんお釣り」
ジャンプのみしか手渡されなかった事を不審に思った祐哉は、右手でジャンプを抱いたまま、手刀のように左の掌を素早く私に突き出す。
「あー、はいはい。これ、言ってたチロルね」
私は袋からジャンプに続いてチロルチョコを取り出すと、それを突き出された弟の掌の上に載せた。
「だからぁ、お釣り!」
「うるさいなぁ」
私はポケットに手を突っ込むと、結局使わなかった300円をチロルと一緒に弟の掌の上に載せた。
「……えっ?」
「ジャンプ、おごるよ」
「いや、えっえぇ!」
「たまには、姉らしい事してあげなきゃね」
言い終えた私は、ソファーで目を丸くさせている弟の前を通り過ぎ、自分の部屋に戻る為にドアノブに手をかける。
「お父さん!
りんちゃん、なんかおかしい!
なんか、ブツブツ言ってるし」
「花凛がなんかブツブツ言ったり、ボーッとしたりするのは、いつもの事だろ」
無神経な父親の発言が背中に聞こえてきたが、私は取り合わずリビングを後にし、自分の部屋へと戻った。
ドアを閉め、私は再び机に向き直ると、執筆を再開させる為にスマートフォンを手に取る。
袋から先程コンビニで買った炭酸飲料を取り出し、一口飲む事で脳の活性化を促すと、私は頭に浮かんでいるイメージを文章化する作業へと入った。
が、執筆はまたも滞ってしまった。
先程、コンビニで迅速な対応をしてくれた、「アラケーさん」
その彼の様が脳内の大半を占め、小説のイメージがすっかりと片隅へ追いやられていたからだ。
「あー、今、三次元いらないよー」
私はかぶりを振る。
が、私の脳内は膨らんだバルーンのように「アラケーさん」のイメージでいっぱいになっていた。
その時、LINEがスマートフォンに送信されてくる。
私はLINEアプリを開くと、送信者と送られてきたメッセージを確認した。
送信者は「ひな」であった。
先程、コンビニで見かけた渡辺すばると同じく、私の同級生である。
『かりんー、今日は更新しないのー?』
リアルにおいて、私がWeb小説を執筆している事を知っている数少ない友人。
『今、考え中。ちょっとだけ待って(汗)』
その「ひな」に私はLINEをすぐさま返すと、机に上に置いてある炭酸飲料を飲み干し、リラックスとばかりにベッドの上に横臥する。
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