とある配達員の推理

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「ありがとうございました。それでは失礼します」  路地には、たんぽぽが咲き、黄色い太陽が暖かい陽光を照らしていた。 引っ越し業界は新生活を迎える社会人、学生の需要に潤い、それに伴い、宅配業界でも繁忙期を迎えていた。  ドアを閉め、階段で2階から1階へ降り、マンションの共用玄関を出て再び、トラックに乗り込もうとしている最中に、松嶋は顔をニヤリとさせながら、こう思った。  今しがた届けたばかりの男性の荷物──発送元が某手品メーカーであると。その男性の玄関先で、廊下にトランプのキングとクイーンのポスターが飾られているのが、松嶋の目に入った。  手品好きな若い宅配業者は届けた荷物の形状や大きさから、恐らく、フローティングテーブルの類だろうと目測し、思わず仲間意識を持ってしまい、つい、興味をそそられたのである。  松嶋には手品以外にもう一つ趣味がある。それはミステリ小説を読むことであった。手品、ミステリの両方に共通することは、摩訶不思議な謎が提供されることであり、そのようなマニア向けの趣味を持っている宅配業者はめったにいるもんじゃない。  休日は外に行くというよりも、家で味わいながらミステリ小説に没頭する。それが松嶋の日常なのだ。
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