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翌日。
「ピンポーン」
松嶋が期待に胸を膨らませて、及川の家のインターホンを押した。ドアの向こう側から、こちらに近づいてくる足音が聞こえる。ドアが開かれた。
なんと、現れたのはこれまた美しい人だったのだ。しなやかでサラサラとしたショートの黒髪。二重でぱっちりとした大きな目。細身だがすらっとしたスタイル。身長も高く、まるで宝塚歌劇団の男役をやっていたと思わせるような容貌。松嶋は前日と同様に心を奪われてしまった。こんなにも美しい人が目の前にいるなんて。もちろん、及川さんも美しいが、この人も負けないくらい気品あふれるものをもっている。
松嶋はすっかり、美しい容姿に引き込まれていたが、忘れていた声を出し、荷物と引き換えにサインを書くように頼んだ。
相手の人物が荷物のサインを書いているのをいいことに、松嶋は引き続き、美しい顔を見ようと思ったのだが、ふと前日に巡らせていた推理の解答が分かり、鳥肌が立つのを頭のてっぺんから、足のつまさきまで感じた。それはさながら、松嶋にとって、迷宮のラビリンスからの脱却にも等しい現象であった。
松嶋の推理はこうである。
荷物をミコヒ運輸に依頼したのは及川薫さんだった。前日に宅配業者が玄関先で見かけた女性は“薫さん”ではない。名前は分からないが、薫さんの姉か妹だろう。
目の前でサインを書いている人は前日あった女性より、いくらか年上のように見えるから前日の女性は及川薫さんの妹。目の前の女性は及川薫さん本人だ。説明の観点から(誰に対する説明なのか──)、前日の女性は美嘉さん、目の前の女性は薫さんと呼称する。
元々、荷物を依頼した薫さんはその日、用事があり外出していた。そのため、荷物の受け取りを美嘉さんに頼んだ。美嘉さんは、荷物の受け取りのために、しばらく家で待っているものも、宅配業者は一向に来ない。宅配業者に対して、コンビニのために外出していた、といっていたこと、その時、時刻は午後3時頃だったことを踏まえると、コンビニでお菓子でも買ってすぐに戻ってきたに違いない。美嘉さんは、数分の外出中をねらって宅配業者は訪問して来ないだろうと思った。
しかし、間の悪い宅配業者は、数分の不在中に荷物を届けてしまった(俺のバカ──)。その業者が不在票を郵便受けにおいて帰ると、家に戻った美嘉さんがそれに気づき、すぐに再発送の電話の依頼をかけた。
不在票の発行はシステムを通じて依頼主に通知される。美嘉さんによる電話での依頼があった後、外出先で不在のため再発送の依頼通知を受信した薫さんが、手元のスマホで翌日に──つまり、本日に日程を変更した。
その先は言わずもがな、美嘉さんは電話で依頼した荷物が届いたかと思ったら、宅配業者に荷物は時間指定が優先され、渡せないといわれて食い下がった。しかし、美嘉さんも薫さんが日程変更をかけたから仕方ないと察して、荷物を受け取らずドアを閉めた。
恐らくこんな具合だろう」
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