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お静かに
咆哮は観衆を一同に静まり返らせた。いついかなる時も冷静沈着であったチャンピオンが、ちくしょう、くそったれ、ふざけるな、そう叫び続けているのだ。心が。気迫が。
そのまぎれもない姿にみな圧倒され、どよめきすら起こせず固唾をのんで見守るしかなかった。沈黙が支配するコートでは二振りのラケットだけが、王者の激高を谺させる。
若き挑戦者は食らいつくことをやめない。口を閉ざした双峰の間にまたがるネットをはさんで、終わりのみえないラリーというエコー。
そのさなか、帽子を深めにかぶり常に変わらぬ眼差しをたたえた主審は、誰の耳にも届かぬほどの小さな声で呟いた。「Quiet, please」
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