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――ガツン。
力任せにスプーンを突き立てる。
鮮紅色がぼとり、真っ白な皿にこぼれ落ちた。
胸の奥が焼けるようにひりひりして、煮えたぎるように熱くて、吐き気が押し寄せてくる。目の前の赤色に、私の中で捉えようもない何かが狂って暴れ回ってる。
スプーンを握りしめたままの右手が動かない。動かせない。
このままだと、全部ひっくり返して、自分までぐちゃぐちゃに崩れ去りそうで。
窓の外のモノクロの雑踏が、ずっと遠くにある。なのに、誰とも分からない靴音は私の耳元で何度も何度も、クレッシェンドを並べ立てエンドレスで繰り返される。
私を避けるように人の影が通り過ぎる。瞳にはただ暗闇が立ち込めているだけで、そこに存在しているのかさえ確かめられない。私は一人、辺りを見回す。誰も、私に視線を向けようとはしない。私の存在すらも感じていない。誰も、私を知らない。
ここにただ座っているだけなのに、人混みの中に取り残されているような感覚が襲ってきていた。
助けを求めるように瞬きをしても、やっぱり目の前はモノクロの世界。
私の中から、全ての色が抜けてしまった。それなのに、なんでいつも、この色だけ。
吐き気が再び押し上がってくる。
絵の具のようにべっとりした赤色は私をあざ笑う。私の情けない有様を見つめているように。
無性に腹が立った。その憎らしい姿が私を煽って、それを見てまた馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくるような気がした。
そんなに私を陥れたい?
いつまでも変われない私がいけない?
全部ぜんぶ、お前のせいなのに。私が変わりたいのに変われないことなんて何も知らずに、なんでそこに存在してるの?
プチン。糸が切れた。思考回路の糸が、確かに分かるほど、切れた。
気付いた時には、目の前がスプーンにのった赤色で染まっていた。
私の頭、どうかしてる。
燃え盛る赤色が私をそそのかしているだけかもしれない。でも、もう既に考えられなくなっている私に、そんな忠告は響かない。
もうどうなってもいい。とにかく、一秒でも早くここから抜け出したいだけ。
私は目を閉じる。次に目を覚ましたらどうなるのか、何も分からないまま。
ただ、同じ景色が現れないことだけを思いながら。
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