1 3月6日(金)、Yo! Sei! JUMP

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1 3月6日(金)、Yo! Sei! JUMP

休校が始まって数日しか経っていなかったが、中居明枝(高2)はこの時間にもうアキアキ&ヘキエキしていた。 午後の4時間での移動距離は、歩数計アプリによると43歩。自室のベッドから、リビングのソファへ、たまにテーブルへ、和室へ行き母が使う布団へ。テーブル以外、基本は、ゴロ寝スタイル&手にスマホ。寝たきり老人ならぬ、(ほぼ)寝たきり若者だ。 動画もフリマサイトもアホほど見たし(これからも見るけど)、オンラインゲームもグループチャットもアホほどやったけど(これからもやるけど)…明枝は思う。こういうのってあくまでも退屈な日々の気分を変える爽快タブレット的なものであって、1日の時間の全部を埋めるメインコンテンツにはなり得ないんだな。かといって、勉強にもまったくもって身が入らない。親もいない家に閉じこもりっきりで、スマホもいじり放題で(利用制限はかかっているが、ネット見たりはPCがある)、教師や級友の目もないとなれば、ダラっとしない方が逆にどうかしてるというもので、むしろまったくもって身が入らないのが当然というものだ…。彼女は自分をそう正当化するのだった。 窓の外で、夕焼けチャイムが鳴りだした。 ああ、4時半なんだ…と思いつつ壁の時計を見ると、5時半だった。おなかもへってきた。生産的な活動をまるでしなくても、明枝の実に健康的なおなかはいつ何時も、へる。 そこへ着信音が鳴った。稲垣さんからで、「ブラバン(永遠なれ)」という部活のグループに来たものだ。 「なんかテレビで発表やってる。学校のことっぽい?」 学校?もしや、休校解除かな。明枝はテレビをつけてみた。 リモコンでしばし、ザッピングしてみる。どのチャンネルでも、この国の指導者が大写しになって、何ごとか話している。明枝はボタンを押す手を止め、彼の言葉に耳を傾けはじめた。 「…ウイルスの感染拡大につきましては、あらゆる手を尽くし、この真の国難を一丸となって乗り越えていくことが大事で、あります。わけても、中・高齢者、とりわけご高齢の皆様の生命を守っていく、感染を防いでいく、その手立てにつきましては、内外の知見を結集して当たることが肝要でありますが、そのうち特に大事なことの一つに、「ストレスのない生活をお送りいただき、免疫力を最大限に高めていただく」、このことが極めて重要であると、私はまさに、考えておるところで、ございます。  昨今、ネット空間や一部のメディア報道等を中心に、いわば世代間の罵倒の応酬とでも言える状況が、言われなき煽り行為が続けられている状況が、ございます。いわく、「学校が休校をしても、高齢者が動き回っていては、市中感染の拡大は防げないのではないか」。いわく、「中・高年の活動を制限しないで、若者に感染拡大を押し付けるのは、何かおかしいのではないか」、云々でございます。こうした声はまさにデマでありまして、高齢者を一方的に誹謗中傷するものに他ならず、わたくしは断固として否定したいので、あります。先手先手、そしてまさに最善のかぎりを尽くし、我が国のご高齢の皆様の、存在ないし健康について、全力をあげて、お守り申し上げたい。力強くここにこれを宣言するもので、あります。 日本経済を止める、これは言うまでもなく、するわけにはまいりません。中高年、とりわけ高齢者の皆様の中に感染が広がる事態を、わたくしの責任において、断固として防ぐ。そして、活力ある、力強い姿で、街を闊歩していただく、談笑していただく。これこそ、我が国の経済が強力に立ち直っていく、まさにその力の源泉なので、あります。今、ご高齢の方が受けているバッシングや非難というものは、まさに根も葉もないことであり、これを声高に叫ぶ人は嘘つきであろう、人間としてどうなのか、私はこう考えずにはおられないわけで、あります。 言われもないバッシングや非難を浴びて、心をまさに痛めているご高齢の皆様に、1日も早く、元気になっていただく。このために、わたくしは、現在休校で児童生徒の登校がない学校の施設、これを高齢者の皆様に、最大限活用していただくこと、このことをまさにわたくしの責任において、広く学校設置者ならびに関係者に要請をするもので、あります。 具体的に申しますと、教室等を終日、会合等に自由に、ご活用いただくことでありますし、そして時期的にはですね、美しいわー(我が)国のシンボルとも言えます、桜についてであります。今年の桜の花は、列島の南北で若干の差はありますけれども、本州においては来週末に多くの地域でまさに見頃を迎える、そのような開花予報というものが、気象庁、ならびに複数の民間気象予報会社から発表されているところで、あります。すでに、一部の自治体では、花見の自粛にかかる要請があったように認識をしておりますが、高齢者の皆様が、美しいわー国のですね、綿綿と続く伝統に他ならない、桜を見る会合、これをでしっかりと楽しんでいただく。このことがご高齢の皆様の、ひいてはわが国の元気回復に非常に重要であると考えます。 いうまでもなく、学校には、桜の木がつきものでございます。桜の花の咲く時期にはですね、遠慮なく、その下で、会食や催しの機会を持っていただく、仲間を募って楽しんでいただけますことが肝要で、あります。その場を躊躇なく提供いたしたく、私は行政の長として、邁進する所存でございます。全国のあまねく学校施設を最大限活用していただくこと、これを力強く要請するもので、ございます。どうか、花を愛でていただき、仲間内で楽しい時間をお過ごしいただければと、願うところでございます。 全国の子供たちへ、私からメッセージを送ります。3月の大事なこの時期、あなたがたの学校を休みとする措置を講じること、誠を持ちまして断腸の思いではございました。そして、今回「どうして大人だけ」、そうした考えも頭を過ぎるかもしれません。しかしながら、しかしながらですね、ご高齢の皆様は日本に住む私どもにとって、まさに、宝なのであります。あなたがたが外を出歩くことによって、日本経済を担う、あるいは長きに渡り担ってきてくださった、大人たちへの集団感染を引き起こす、このような事態は絶対に、断固として、避けなければならないもので、あります。 どうか引き続き、ご自宅等で安心安全にお過ごしいただくとともに、目上の方々をを心を込めて尊敬する、その美しい伝統にですね、この機会にしっかりと想いを馳せながら、心良く大人たちに学校を貸してくださいねと、桜の開花を楽しませてくださいねと、私から切にお願いをするもので、あります。 私からは以上であります。」 少しぼおっとしてしまってから、私はグループに、白い人が目をひん剥いて大ジャンプしてるスタンプを送った。
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