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「お前から貰った資料には殺人に使われた拳銃の種類が特定されていなかったがどうしてだ?」 交番からの帰り道、俺は伊吹刑事に電話して、手っ取り早く問い詰めた。 結局、根来巡査は途中から、"わからない"、"それ以上は知らない"の一点張りで、奴が同僚だった橋本了一から、バーテンが拳銃の裏ルートの売人であることを聞いたという話以上の情報を得られなかった。 そこで伊吹にもうちょっと詳しい資料を請求するつもりで問い質すことにした。 「遺体には弾丸のライフルマークが残ったはずだ。銃の特定は出来るはずだが」 「凶器はコールド・ハンマーリングで作られた銃身らしくてな、ライフルマークが特定しづらいみたいだよ」 伊吹は妙に言い訳臭くそう返してきた。 「それにしたって、だいたいの拳銃の種類は特定出来るはずだ。全く海のものとも山のものともつかない訳ではないだろ?」 「わかったよ。それについては後で追って連絡する」 「頼む」 そう言って電話を切ってから、俺は愛車のクライスラーPTクルーザーが故障中のため、赤毛のモヒカンヘアーの中古車屋・広岡が代車として寄越した1970年代のダッヂ・チャージャー440R/Tが停車してある場所に戻って地味な服装に着替え、もう一度極秘に根来を見張り、尾行することにした。 ひょっとしたら、橋本と接触する可能性が無きにしもあらずだからだ。 それにしても、70年代のダッヂ・チャージャー440R/Tなんて車は、目立ちに目立ちすぎて探偵の尾行には一番使えない車だ。 何でこんなバカ高い骨董価値のある車に代車として乗る羽目になったかと言えば、もはや広岡の中古車屋は開店休業に近く、同業者に二束三文で在庫車を叩き売ったがために、代車が存在しないからだった。 仕方なく広岡は、随分昔に下取ったものの、骨董価値が高すぎてまるで売れなかったダッヂ・チャージャー440R/Tを自分で乗り回していたのだが、代車がないので、そいつを俺に貸してくれたというわけだ。 こんな骨董品を乗り回すってのは確かに気分がいいが、探偵仕事にはまるで向かない。 だがしばらくの間は、根来がいる交番が見える、少し離れたコインパーキングにダッヂ・チャージャーを停車して、車の中から根来を見張ることにした。
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