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R町は静かな住宅街で、犯罪発生率の低い、比較的安全な地域だった。
初めて来た町だが、今辺りを少し歩いてみても、治安の良い地域であることは一目でわかる。
俺はR町交番派出所の前で時間を潰した。
出で立ちは中折れハット帽にレイバンのサングラス、黒のズートスーツに黒いシルクシャツと黒のネクタイを着用し、所謂黒ずくめのスタイルだ。
しばらくして、自転車に乗った巡査が交番に戻ってきた。
俺は交番の前で派手にラッキーストライクをふかし、煙を交番に向かって吹きかけた。
自転車から降りた巡査は一瞬こちらをチラリと見たが、交番の中に入ってからも、いかにも挙動不審で怪しい恰好をした俺の方を気にしていた。
さっきまで交番の中にいた警官が、今度は自転車に乗って巡回に出た。
俺はさらにラッキーストライクをふかしながら、交番の中にいる巡査を睨みつけた。
すると巡査もこちらを睨むように見た後、そのうちに交番から出て、俺の前までやって来て職務質問を始めた。
「すいません、何をなさってるんですか?」
「見た通りだ。喫煙タイムだ」
「この町の方ですか?」
「いいや。だが俺が何処のどいつだろうが、あんたの知ったことじゃないはずだ」
「すいませんが、身分を証明するものをお持ちですか?」
ここまでこいつをうまく引っ張り出してきたが、この辺りで種明かしをしてやろう。
「根来巡査だな」
「え?そうだが、何で私のことを知っている?」
「あんたに用事があって来たからだ。腰道具(拳銃)紛失と購入の件でな」
「な、何の話だ…?」
根来は明らかに動揺し、顔を少し歪めた。
やはりバーテンからS&W M360J SAKURAを買ったのはこいつだったか。
「心配するな。俺は恐喝屋でも公安でもない。交番の中は、今あんた一人か?」
「あ、ああ…」
「それじゃあ職質からの流れで、交番の中で俺を取調べしてる風を装って話を聞かせてくれ。下手な真似をするなよ。こっちもあんたの秘密は厳守する」
根来は戸惑った顔をしていたが、しばらくして、
「わ、わかった」
と小声で呟いた。
俺たちは二人で、不審人物と真面目な警官を演じながら、交番の中に入って行った。
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