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「あの売人のことは、橋本から聞いたんだよ」 根来巡査はいささか言いにくそうに、そう小声で口にした。 「橋本から?あんたが奴に教えたんじゃないのか?」 俺は率直な疑問をぶつけた。 「俺は所詮、ハコ番の巡査にすぎん。そんな裏ルートなんか元々知らなかったよ。そんなことは世間知らずの俺なんかより、本店捜一の橋本の方が詳しいはずだろ」 「ハコ入りのボンボンは何も知らない無垢な坊やだと言いたいのか?だがそんなハコ入り息子のあんたがリボルバーを実際には買い、橋本は買ってなどいない。それに順番が逆だ」 「順番ってのは何だ?」 「あんたが売人からレンコンを買った後の数日後に、橋本は売人の店を訪れている。そこでは憂さ晴らしのサラリーマンみたいにハイボールをあおって、奴はさっさと帰ったそうだ。売人のところへ行ったのは、あんたの方が先だ」 「知らん。銃を買った後、橋本には会っていないし、あいつが売人の店に後で行ったことも俺には初耳だ」 「本当に橋本に教えられて、売人の店に行ったのか?」 「そうだよ」 「ふーん。ところであんたは、元々の自分の腰道具であるM360J SAKURAを何で紛失したんだ?」 「…落としたんだよ」 「それじゃあ誰かヤバい奴にでも拾われたら大ごとじゃないか」 「うん…まあな」 「その割には、あんたは落ち着いてるな。あんたがどういう警官だか知らんが、自分が落とした拳銃がヘタをすると犯罪に利用されるかもしれないのに、あんたはまるで、そいつを気にしているようには見えないな」 「そんなことはないよ。これでも小さな胸がチクチク痛んで、針山を歩いているようなチキンハートで、日々やり過ごしている」 「やり過ごすような余裕が何で生まれる?」 「為すすべがないからさ」 根来はそう言いながら、妙に目を泳がせた。 何を隠している…? 俺は再び、目の前の根来を凝視した。
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