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13
根来巡査は当直勤務の時間が終わると、真っ直ぐ独身寮に帰って行った。
ダッヂ・チャージャーでは目立ち過ぎるので、徒歩で根来を尾行した。
特に変わった様子はなかった。
その日は遅くまで独身寮前で張り込んだが、根来は出てこず、大人しく引きこもったままだった。
俺は0時を回る頃に張り込みを終了し、ダッヂチャージャーを飛ばして、自宅の廃屋に戻った。
自称秘書の女はもう寝ているだろうから、俺は物音を立てないように自宅に入り、チェスターフィールドに腰掛けてから、ジンジャエールで割ったライ・ウィスキーのハイボールで一杯やった。
せっかくだから往年のハリウッド女優モーリン・オハラの「Love Letter From Maureen O'hara」でも聴きたいところだったが、音量が大きすぎて自称秘書の女がすでにご就寝なのを起こすわけにいかないので我慢した。
だが、
「お帰りだったんですね」
その時、不意に部屋の扉が開いて、声が聞こえた。
そちらを振り返ると、もう寝たと思っていた自称秘書の女が立っていた。
「まだ起きてたのかい?」
「ボスの勤務中に眠るわけにはいきませんので」
女はタイトスカートに白いシルクのブラウスという秘書の正装のままだった。
「これからは気にしなくていいから。そうだな、夕方の6時になったら君の秘書としての労働時間は終わりだ。後は好きにしていい。こんな時間まで縛りつけてちゃ今時ブラック企業のレッテルを貼られちまうからな」
「でもディナーを作るお約束でしたから」
「それも暇な時だけでいい。君の作るディナーは絶品だが、こういう仕事だ、帰れない事もある。そういう時は外で何か食べてくるから気にするな。デリカテッセンで買ったステーキのサンドイッチとエンチラーダ、それに熱いコーヒーでもあれば、俺にはちょっとしたパーティだ」
「わかりました。おやすみなさい、ボス」
自称秘書はそう言うと、そそくさと部屋を出て行った。
俺もライ・ウィスキーのハイボールで一杯やってから、しばらくして眠りについた。
寝酒が効いてよく眠れた。
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