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「元刑事と何処かで会ったことがあるのかい?」 俺は渡した事件資料を読み耽るバーテンにすぐに聞いた。 「ええ」 「何処で?」 「この店です」 バーテンはこちらを見ることもなく、あっさりそう答えた。 「へえ、奴もこの店の常連だったのか?」 「いえ、前に1、2回来たきりです。2回とも業務用スコッチのハイボールを飲んで帰りました。それに来たのは、この資料によると本店(警視庁)を辞めた後の2年ほど前です」 「ということは、何かこの近辺に来る用があったって可能性もあるな」 「そうかもしれないですね」 「奴は自分の妻子を殺したと確信しているが、宮入り(迷宮入り)しちまったヤマ(事件)の元マルヒ(容疑者)を追って、この辺りにやって来たって線だ。その元マルヒをちょっと首検(写真を見る)してくれないか。そいつがこの店に来たとか、見覚えはないか?」 「ありませんね」 バーテンは写真を凝視しながら、そう答えた。 まあそんなに単純に話は繋がらない…。 元刑事はたまたまこの店の評判を聞いて飲みに来ただけかもしれない。 何もハナからヤマ絡みとは限らない。 「元刑事のことで何か覚えていることはないか?」 「ハイボールを引っ掛けるように飲んで帰って行きました。真面目そうな顔立ちに短髪、濃紺のスーツを着てましたが、ただのビロ(サラリーマン)には見えませんでした」 「よく覚えているな」 「客のことを記憶するのも業務の一環です」 「相変わらずだな」 「それに…」 「何だ?」 「あの男は元おでこ…いや失礼、元警察関係者です。中にはあなた同様に、私に腰道具(拳銃)のルートがあることを薄々知っている警察関係者もいます」 「それじゃあ、奴はお前から腰道具を買いに来たってのか?」 「実はオフレコですが、男が店に来た、その2週間前にレンコン(リボルバー拳銃)を目隠し(取引相手とお互い顔を合わさないブツの受け渡し)しました」 「へえ。じゃあ奴はそれを何処かで知って、自分も取引に来たってのか?」 「可能性はあります。妻子に対する復讐をしたがっていたなら、道具はいりますからね」
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