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7
「敢えて聞くが、お前がレンコンを渡した相手は誰だ?」
俺は、バーテンが話したがらないことがわかった上で、敢えて聞いた。
「相手がいくらあなたでも話しにくいことです。顧客の個人情報は絶対秘密厳守です」
「わかってる」
「しかし私は密売人を生業としているわけではありません。ちょっとしたルートがあるだけです」
「知ってる。俺にだってよっぽどのことがない限り売らないものな」
「それがルールです」
「それじゃあ、よっぽどのことがある奴が買いに来たということになる。そのよっぽどのことってのは何だ?」
「はあ…」
バーテンは俯いたまま目を閉じた。
「買いに来たのは警察官だろ?」
「…何故、そう思うんですか?」
バーテンは少し驚いた顔をした。
「この店に来た逃亡中の元刑事が、お前から腰道具を買おうとしてたのだとしたら、そのよっぽどの事情がある奴というのは警察関係者じゃないかと思ったからだ。お前が売人である情報は、その警察関係者から、懇意にしていた元刑事にバレたんじゃないかと思ってな」
「なるほど」
「顧客の職業だけなら構わんだろ?」
「そうですね。参りました。ご明察の通りです」
「警察官が何で拳銃を買いに来るんだ?」
「自分に支給された腰道具を紛失したらしいのです。それでそっくり同じ銃を渡しました」
「ふーん、そいつがよっぽどの事情ってやつか。M360J SAKURAか?S&W社製の5連発のレンコンだな」
「…ええ…」
「レンコンってことは制服警官か。そういう事情なら、私服の刑事だったら5連発のオートマチックS&W3913辺りが必要になるだろうからな」
「…。」
「わかった。お前はもうそれ以上喋らなくていいよ」
「恐れ入ります」
バーテンはそう言うと、奥の棚から、俺が愛好しているハウス・オブ・ローズの8年ものを取り出した。
ウィリアム・ホワイトリー社のブレンデット・スコッチだ。
そいつでダブルのオン・ザ・ロックを作ってくれた。
「店の奢りです」
「ありがとう」
俺はハウス・オブ・ローズを一気にあおりながら、今後のことを頭の中で思案した。
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