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奴との遭遇
遭遇は大抵突然だ。
できることなら生涯会わずに過ごしたいあの忌まわしい黒の一族には、出会った瞬間、思わず硬直してしまう。
目が合ったら試合は開始だ。否も応もない。
オレにとっては相手が死ぬこと、相手にとってはオレから逃げ切ることが勝負の終わり。どっちにとっても負けられない――否、オレにとっては絶対に負けられない勝負だ。
とは言え、遭遇した時、大抵オレは武器なんて持ってない。丸腰だ。曾祖母ちゃんは素手でも退治していたようだが、さすがに無理だ。
奴から目を離さないようにしながら、相手を確実に殺れる武器を探す。
ただ、はっきり言って、殺す感触が手に伝わる武器は勘弁だ。辛うじて、スリッパか蠅叩きがベターだが、ベストはスプレーである。
しかし、最近の連中と来たら、殺虫剤でさえ瞬殺は難しい。モノによってはスプレーの風で奴が床の上を滑るだけで、息の根を止められないことも珍しくはない。
さて、どうするか。
どうにかマスクを装着し、手にした殺虫剤を手に深呼吸。いざ、噴射!
うわ、逃げるな!
近年の夏は遭遇回数がグンと上がった。その対策で、床の上だけは見通しよくしておいたのが幸いした。遮蔽のない部屋の中で逃げ回る奴を追い回しながら、その身が噴射物でテカテカになるまで入念に吹きかける。
やがて何とか相手は動かなくなったが、室内は殺虫剤の臭いで充満。下手すりゃ奴と心中し兼ねない勢いだ。
仕方なく、夜中だが窓を全開にする。お上品にカーテン越しではとてもではないが空気の入れ換えなんて敵わない。
今日はこの部屋で寝れるだろうか。
しかし、その前にこの死体をどうにかしなくては――え、何。殺人の上に死体遺棄罪だって?
心配ご無用。相手はあの夏の風物詩、Gで始まる黒い昆虫の一種だから。名称を直接言うのもちょっと遠慮したいので、そこは察してくれ、ということで。
負けられない理由もお分かり頂けただろう。
見失ったが最後、霧状殺虫剤でも撒かなきゃもう安心して暮らせやしないからな。
さて、こんな時のために買っておいた百均グッズ――もとい、マジックハンドが久々に出番だ。
奴の死体の上にティッシュを何枚か敷いて、その上からその器具で摘み上げ、スタンバイしておいたビニル袋へ投入!
明日がゴミの日で助かった。だが、今日の内に眠れるかどうかはまた別の話。
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