「笑う君と 死んだ君」

1/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

「笑う君と 死んだ君」

雲ひとつない空の下  大きな桜の木がそびえ立っている。 遠巻きに見つめる自分が 高校の制服を着ているのを見て「あぁ これは夢だな」  と確信した。 桜の木を見上げる人影は 艷やかな黒髪が腰まで伸びていて  両手を後ろに組んでいる。 自分が近づかないと  きっと後ろを振り向かない。毎度のこと。 若干駆け足で芝生を踏んでいくと  あと数センチで触れられる位置で  君は振り向いた。 「優くん  来てたんだね。」 そう言って君はニコっと笑う。わざとらしくない自然な仕草も声も 毎度のこと。 何も言わず  2人でしばらく上を見つめる。 「ねぇ優くんーーー」 彼女が何か話すとき  どこからか風が吹き  桜吹雪に遮られる。 声の入っていないアニメーションを見ているようで 彼女の姿が  だんだん見えなくなって その全てが舞い降りた時 彼女は一面に敷き詰められた桜の花びらの上で 死んでいるのだ。 まるで眠っているかのように  微笑みを浮かべて 毎度のこと。 彼女に近づこうとすると 途端に桜の花びらたちはブラックコーヒーのような色に変わる。彼女の体を バキュームのごとく地面へ吸い込んでしまう。 自分は何もせず  ただそこにいるだけ。 毎度のこと。 やがて景色がジグソーパズルのように砕け散って  白一色の空間になったところで 目が覚める。 毎度のこと。 殺風景な白い天井にはりつけられた 平たい円のライトに見下され、知らず知らずのうちにやってきた朝に ため息をつく。 『また始まる』 生気のない体は  この夢を見ると いつにもまして重く硬い。 半ば無理矢理に体を起こして  洗面所へ連れて行く。 冷水が温まるのを待つ間 チラリと鏡と向かい合う。 『・・・つまらない顔』 ぬるま湯を顔に押し当てる。 この季節になると 夢を見る。 あの日を思い出させる夢 毎度のこと。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!