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しかしどうしたことか、お客さんの方から返答する様子はないし、店内から出ていった気配もない。
ったく、日本語が伝わってないのか?
「ちょっとお客さん、聞こえてます? 今は営業時間外だって──」
俺は若干語気を強めながら椅子から立ち上がり、お客さんの方へと顔を向ける。
「……は?」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
無理もないだろう、お客さんだと思っていたヤツの格好が、あまりにも常軌を逸していたのだから。
そこに立っていたのは、小柄で華奢な体格の少女だった。
高校生……いや、この幼い顔付きや身体付きからして、おおよそ中学生くらいか。
腰丈程の長さのブロンドヘアに、マグマの如く活発に煌めいている紅眼。
そんな眼と同じ色をした彼女の着ているドレスは、足を隠すほど丈が長くも、肩や腋を露出させる大胆なものだった。
これだけでもだいぶ常軌を逸しているのだが、極めつけは彼女の両側頭部で黒々と目立っている大きな髪飾りだ。
龍とか悪魔とかの角を模したような……なんなんだあれは。
いや、それよりも今解決すべき問題は、こいつが何者かということだ。
少なくとも、日本人には見えない。
「フ、フーアーユー? ドゥーユースピークジャパニーズ?」
「……」
恐る恐る拙いカタコト英語で問いかけてみるも、少女は無言のまま俺には目もくれず、ヨダレを垂らしながらある一点を凝視している。
彼女の視線の先には、俺が作り出してしまった最低最悪の殺人兵器、オムチョコライスがあった。
心做しか腹の鳴る音も聞こえてくるし、まさかとは思うがこいつ、これを食べたがっているんじゃ……。
「まいったな……見た所まだ子供だし、どこかに親は──」
どこかに保護者が居ないかと辺りを見回した俺だったが、これは大変な失敗だった。
空腹の獣から視線を外してはいけなかったのである。
「甘味ぃぃぃぃぃ!」
「ふぁっ!?」
いきなり突進してきた少女に俺は為す術もなく弾き飛ばされて、「ごふっ!」
壁に頭を強く打ったせいで、視界と意識が激しく揺らぐ。
ああ……気絶するなんて生まれて初めてかもしれない。
消えゆく意識の中で俺が見たものは──。
「う、うまぁ……! 人間界には、これ程までに美味い物があったのか!」
──素手でオムチョコライスを貪り喰らいながら、狂喜乱舞している少女の姿であった。
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