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「はあ……」
俺は客が一人も居ない店内を見回しながら、深い溜息をつく。
時計に目をやると現在の時刻は午後の六時、もう閉店の時間だ。
今日は日曜日だというのに、入った客はたったの八人だけ……。窓から差し込む夕日のオレンジが、なんとも言えない妙な哀愁を感じさせてくる。
「はあ……」
「知ってますか? 溜息ばっかりついてると、幸せが逃げていっちゃうんですよ」
二度目のため息をついた俺に、お叱りの言葉が飛んできた。
声の方を振り向くと、そこにはモップを片手に頬を膨らませている少女の姿があった。
「ああ、一花か。床の掃除サンキューな」
彼女の名前は鬼頭一花。
土曜日と日曜日の間だけ、喫茶タチバナでアルバイトをしてくれている高校生だ。
鬼の頭だなんて怖い苗字をしているけど、本人のイメージは全くもってその逆である。
出る所はしっかりと出た高校生らしからぬボディーライン、パーマがかったセミロングの茶髪に良く映える可愛らしい顔立ち。
「灸太郎さんは眉間に皺を寄せて溜息をつくよりも、笑顔でいた方が絶対に似合いますよ。顔は良いんですから」
そんでもって性格まで良いと来れば、もはや言うことは何もないだろう。
……ほんと、うちの店でバイトをしているのが勿体無いぐらいだ。
「そうは言ってもなぁ。オープン以来ずっと赤字が続いてたら、そりゃ溜息もつきたくなるってもんだろ。今日だって、日曜日なのにたったの八人しか客が来てないんだぜ?」
俺は肩を竦めて自嘲的に笑った。自分で言ってて、なんだか悲しくなってくる。
対して一花は、そんな俺を見ても笑うことはなく、
「それはほらっ、どんなに素晴らしい本があっても、その存在を知らないと読む事が出来ないって言うじゃないですか! それと同じで、お客さんもこのお店の素晴らしさを知らないだけなんですよ。確かに立地が悪かったり見た目がちょっとボロかったりはしますけど、私はそんなのに負けないぐらい、このお店が素敵だと思います!」
身振り手振りで必死になって励ましの言葉を送ってくれる不器用ながらも真っ直ぐな熱意に、俺は嬉しさ反面照れくささを感じてしまった。
この際だ、照れ隠しも兼ねて前々から気になっていた事を彼女に聞いてみよう。
「……なあ、どうして一花はそこまでこの店に親身になってくれるんだ?」
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