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「えっ?」
俺の質問が予想外だったようで、一花は目を丸くしながら聞き返してきた。
「だって他のアルバイトの子達は、給料が低くなるに連れてみんな辞めていったのに、お前はこうして今も残ってくれているだろ?」
自分で言うのもなんだが、この店で働いて彼女のメリットになる事は何も無いと思う。
給料は低いし、駅から離れていて交通の便は良くないし、制服だって地味なカフェエプロンが一つあるだけで、別段可愛いものではないし。
ひとえに彼女がいい子であるとはいっても、こんな店でアルバイトをやり続けるなんてのは、なかなか出来ることではない。
「それがどうしてなのか気になってさ」
「うっ……それは、ですね……」
俺が再度尋ねると、一花は急に口をもごつかせ始めた。
彼女の頬が赤く染まっているように見えるのは、夕日の陽のせいだろうか。
「この店が好きだから……じゃ通りませんか?」
「ほんとに?」
「は、はいっ。ほんと……ですよ?」
ああ、なんてわかりやすい。きっと嘘をつくことに慣れていないんだろうな。
わざとらしい作り笑いを浮かべながら視線を逸らす一花を見て、俺はこいつが何かを隠していると即座に察知した。
こうなると、なんだかイタズラ心が疼いて、意地悪をしたくなってくる。
「おーい一花ちゃん、何を隠しているのかなー」
「なっ、何も隠してなんか……!」
「フッフッフッ、さあ、正直に吐くんだ」
「秘密っ! 秘密です!」
大の大人が薄気味悪い笑顔で女子高生を壁際に追い詰めている。そんな事を警察に通報されようものなら、即座に逮捕されて朝刊のトップを飾りかねない。
しかしここは閉店後の喫茶店、通報する人間なんて誰も居やしないのだ。
「秘密だなんて、随分と水臭いじゃないか」
「そ、それを言うなら灸太郎さんだって、私に秘密を隠しているでしょう!?」
調子に乗って一花をおちょくっていると、彼女の綺麗な茶色の瞳に、突如として反撃の色が灯った。
「俺が秘密を? 残念だが思い当たる節が──」
「税込み四四〇〇〇円の中華鍋」
「げえっ!?」
思わぬ単語が出てきたせいで、俺は動揺を隠す事が出来ずに、ヨタヨタと後ろへよろめく。
ちなみに彼女の言う中華鍋とは、少し前に俺がインターネットの通信販売を使って手に入れた代物である。
「おまっ、どうしてそれを……!」
誰にも言わずにこっそりと購入して、それから誰にも見つからないように収納棚の奥深くに隠しておいたのに、どうして一花がその事を知っているんだ!?
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