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「こないだ、収納棚の掃除をしていた時に見つけたんですよ。それで気になって帳簿を調べてみたら、案の定!」
「くっ……!」
さっきとは打って変わり、今度は俺が壁際に追い詰められる側に回ってしまった。
このままではまずい。……何とか誤魔化して状況を打開せねば。
「そ、そんなの買ったっけなぁ? 最近歳を取ったせいか、物忘れが激しくて……」
「何を言ってるんですか、灸太郎さんはまだ二十一でしょう」
あ、これはダメだ。言い逃れなんて、到底出来そうにない。
蛇に睨まれたカエルの気持ちが、少しわかった気がする。
「どうして赤字で困窮してるのに、そんな高い物を買ったんですか」
「それは、俺なりに店を盛り上げる名物料理を作ろうと思ってだな……」
「そもそもウチのキッチンはIHなんだから、中華鍋なんて使いようがないじゃないですか!」
「うっ……おっしゃる通りです、すいません……」
普段はホンワカとしているのに、怒ったらここまで怖いとは……。俺は一花に言い返す術もなく、正座して平伏するしかなかった。
こんな事なら、イタズラにちょっかいなんて出すんじゃなかったな。──いや、そもそも、『どんな料理も美味しく作れます!』なんてネットの触れ込みを信じて中華鍋を買った俺が悪いんだけど。
「反省しているならもう何も言いません。でも、これから何かを購入する時には、私に相談してからにしてくださいね?」
「はい……」
ああ、女子高生に正論で説教される大人ほど格好の悪いものはないだろう。
これはもう、一花に秘密云々を聞ける雰囲気ではない。うまいこと話をはぐらかした彼女の方が、俺よりも一枚上手だったという訳だ。
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