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にしてもこいつ、頭に生えている角以外は、本当に人間みたいなんだよなぁ。
そんな事を考えながら、ドラッチェの背中にタオルを当てようとした瞬間──。
「……!?」
俺は気づいてしまった。
ドラッチェの前にある洗い場の鏡……そこに、ドラッチェの一糸まとわぬ正面が映し出されている事に。
貧相な身体付きとはいえ、女は女。
俺の視線は、小ぶりだが形の良い二つの山に釘付けになってしまう。
一方でドラッチェは幸運にも俺の視線に気がついていないようで、
「どうした? 早く背中を流してくれ」
「あ、ああ……」
催促の一言に、俺はハッと我に返らされた。
落ち着け、落ち着け。あくまで俺が好きなのはスタイルの良い巨乳美女で、こんな子供みたいな身体に情欲は催さないはずだ。
しかし……。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
以前、日下部という男友達から、禁欲生活が続くとストライクゾーンが広くなるって話を聞かされた事があった。
それを聞いた当初は、「それはねーだろ」と鼻で笑ったものだが……すまん日下部、お前が言っていたのは事実だったよ。
実際に、ドラッチェが居候としてウチに住むようになってから、俺はろくすっぽ自分の欲求を解放出来ずにいた。
わざわざ気を使って、そういうビデオとか雑誌は、押入れの奥深くに封印したし。
「…………」
ちょっとぐらいなら触ってもバレへんか……。
俺は謎の根拠の元、ドラッチェの胸に手を伸ばす。
ふにゅん。
おお……! 指先で少しつついただけなのに、まるで桃源郷のような柔らかさが伝わってきた。
なんて心地良い感触だ。今まで生きてきてよかったな、これがおっぱ──
「ひゃあっ! な、な、何を……!?」ドラッチェの肩がビクンと跳ね上がる。
うん、バレないはずがなかった。
今更ながら、なんて馬鹿な真似をしたんだと思う。
そしてこの後の事を全く考えていなかった。
驚いて顔を真っ赤にしているドラッチェに、どう言い訳をするべきか。
「わ、悪い……。どっちが背中かわからなかったんだ……」咄嗟に絞り出したのが、それだった。
すると、恥ずかしさで赤くなっていたドラッチェの顔が、今度は怒りによって赤く染まっていく。
うーん……どうやら冷静に考えなくても、言い訳の仕方をミスっていたらしい。
「つまり、我輩の胸が背中と見紛うぐらいにぺったんこだと言いたいんだな……? いい度胸じゃないか、キュータロー……!」
ドラッチェは椅子から立ち上がると、片手で胸を隠しながら、もう片手でケロリン桶を掴んで振りかぶった。
「ま、待て! それは人を殴る道具じゃ──」
「問答無用! 不敬罪で斬首刑に処されないだけありがたく思えっ!」
刹那、容赦ない鉄槌が俺の頭頂部に振り落とされ、カコーンッという小気味の良い音が銭湯中に反響した。
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