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そして饒舌なこの人──名前は青柳吾郎さんというらしい──との会話は思いのほか弾み、気づいた時には十分ほどの時間が経過していた。
長くサウナに滞在しているせいか、俺と青柳さんの額には玉のような汗が浮かんで、ムワァとした蒸気が立ち昇っている。
「──なるほど、それで立花くんは勤めていた会社を辞めて、自分の喫茶店を開いたというわけか! いやあ、ロマンのある話だねぇ」
「ははは、ロマンがあったのは最初だけで、今はただただ赤字と戦う日々ですよ」
「うーん……こんなにイイ男が働いている店に来ないなんて、お客さんはわかってないなぁ」
「またまた、お世辞が上手いんですから」
イケメンにして話上手。こういう青柳さんみたいな人がモテるんだろうな。
「お世辞なんかじゃないさ。ああそうだ、僕も今度、君の店に行っていいかい?」
「もちろん大歓迎ですよ! そしたら俺も、青柳さんのジムに通おうかなあ」
「おっ、ジムに興味が?」
「最近、運動不足で身体が鈍っちゃってて……」
「だったら是非ともウチのジムに来るといい! 僕がマンツーマンで鍛えてあげるから!」
青柳さんが目を輝かせながら、俺の手をガッシリと握りしめてきた。
相当に握力があるらしく、青柳さんのゴツゴツした手は少し痛い。
「ああ……君とは良いお友達になれそうな気がするよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
こうやって見ず知らずの人と仲良くなれるのも、銭湯のいい所なんだよな。
そう考えると、ウチの風呂が壊れたのも悪い事ばかりではなかったのかもしれない。
だってアレが無かったら、こうして青柳さんと知り合ったりも出来なかったわけだし。
──そんな想いを胸に馳せながらホッコリしていると、
「えっ?」俺は目を丸くして、素っ頓狂な声を出してしまった。
先程まで俺の手を握りしめていた青柳さんの手が、いつの間にやら俺の太ももを愛撫していたのだ。
それも、やたらネットリとしたエロい手つきで。
「な、何を……!」
「いやあ、本当に僕達は、良いお友達になれそうだね」
青柳さんの蕩けるような笑顔を見て、俺は全てを察した。
お友達ってのはつまり、おホモ達って事だな。うん。
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