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喫茶タチバナ──店内の広さは十畳ほどで、カウンターを除けば、三つしかテーブル席がない。(もちろん時代の流行に乗っ取り、全席禁煙仕様である)
「うーん……やっぱり客の目を引くには、インパクトのある料理だよな」
俺はその中の一つに座って、ボソリと独りごちた。
アルバイトの一花が帰って誰も居なくなった店内に、俺の声だけが寂しく吸い込まれて消えていく。
今現在、我が喫茶タチバナにあるメニューは以下の通り。
・コーヒー
・カフェオレ
・アイスティー
・オレンジジュース
・サンドイッチ
・オムライス
・フライドポテト
・バニラアイスクリーム
・ホットケーキ
……そう、見てもらえればわかる通り、あまりにもありきたりでバリエーションが少なすぎるのだ。
一花は「そんなことないです、見た目よりも質ですよ!」なんて言っていたけど、俺はそうは思わない。
だってほら、繁盛している有名な店には、必ずと言っていいほど見目華やかな名物料理があるだろう?
特大ジャンボパフェとか、チーズが山ほど乗っているピザとか、そういうやつ。
だから喫茶タチバナも、それらの例に則って、何か名物料理を作るべきだと思うのだ。
結果として中華鍋を買ったのは失敗に終わったが、それぐらいでへこたれる俺ではなく、依然としてその思いに変わりはない。
「──とは言っても、流石にこれはやりすぎたか……?」
俺は目の前のテーブルに置かれているそれを見て、若干上ずった声で呟いた。
白米をチョコレートソースと共に炒め、その上に焼いた卵を乗せ、そこへ更にチョコレートソースでコーティングをする──安直に名付けるならば、オムチョコライスとでもいったところか。
我ながら、とんでもない物を作ってしまった気が……。
「いやいや、アイデアでは他の店に負けてないし、インパクトも十分だ。甘い物が好きな女性客にはたまらないだろ」
首を横に振って雑念をかき消す。
ポジティブに考えよう。これが美味しかったら、集客率もグンと上がるはずだ。
もしかしたら、テレビの取材とかも来て、俺の好きな速水アナウンサーが食レポをしてくれたりするかもしれない。
「後は味が完璧なら……」
ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ俺は、目の前のオムチョコライスを恐る恐るスプーンですくい、ええいままよと一思いに頬張った。
刹那──白米と卵とチョコレートの奏でる凶悪なハーモニーが、俺の口内に炸裂する。
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