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「ぶみぃ」  無意識的に口を突いて出たのは、そんな意味不明な悲鳴だった。  説明するまでもなく、米とチョコレートの相性は最悪中の最悪で──。 「まっず! なにこれ、噛めば噛むほど不快なんだけど!」  俺にもプライドがあるから何とか吐き出すのは堪えたけど、今鏡を見たら顔が青か緑に変色している気がする。  不味さも過ぎたら不快になるんだなと、痛烈に思い知らされた気分だ。こんなものを作れるなんて、逆に凄いんじゃないか俺。  ……この場に一花が居なかったのが不幸中の幸いだった。あいつが居たら確実に「食べ物で遊んじゃいけません!」って怒られていただろうし。 「はぁぁぁ……」  ようやく不快感の薄れてきた俺の口から、今日一番の溜息が漏れる。  いつもこうなんだ、何をやっても上手くいかない。その理由が俺の力不足による所なのも、認めたくはないが自覚している。  半年前に超絶ブラックな会社を辞めて喫茶店を始めた時だって、経営が思うように上手くいかず、赤字を連発させて、バイトの子達にロクな給料も払えなかったし。  バイトを辞めていった子達の俺を蔑むような顔が、今でも鮮明に思い浮かぶ。   「ハハ、駄目だな俺……」  将来への不安とか、オムチョコライスの処分どうしようとか、色んな事が混ざり合いになって、俺は虚無的な笑い声を零すことしか出来なかった。  ──と、そんな時。カランカランという音と共に、一陣の風が店内を通り抜けた。  この音は、喫茶店の扉に付けてある鈴の鳴らす音だ。つまりは誰かが扉を開けたのだろう。  たった一人のアルバイトである一花はだいぶ前に帰ったし……となると、今来たのはお客さんか。 「すみませんね、お客さん。ご来店して頂けたのは嬉しいんですけど、あいにく今は営業時間外なんですよ。ドアプレートにCLOSED(閉店中)って書いてあったでしょう?」  気分が沈んでいたのもあって、俺はお客さんの方を見ずに、ぶっきらぼうな態度でそう言った。  
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