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ICUでの面会は、1回に二人までと決められていた。だが、父は現在、非常に危険な状態なので、一人ずつしか面会が許されてなかった。
「私はさっき会ってきたから」という母に背を押され、恐る恐るICUへと入る。
10床くらいあるだろうか、一つひとつのベッドが、医療従事者のいるカウンターから見えるような設計となっており、それぞれがカーテンで仕切られている。
そのうちのひとつに父がいた。
たくさんのチューブに繋がれ、傍らのモニターは、よく医療系のドラマで耳にするような「ピッピッピッ」という音を放っている。
口にもチューブが差し込まれているせいか、顔立ちが変わっていた。
私はなんだか怖くなって、そーっとベッドに近付いたけど、なんて声をかけていいのかわからなかった。
父は目を閉じて、機械によって強制的に酸素を肺へと送り込まれている。
あの父が。
強くて、優しくて、愛情深くて、頼もしくて、たまにお茶目な父が。
機械によって命を繋ぎ止められて、力なくベッドに横たわっている。
駄目だ。頑張ってくれ。頼むから、もう一度、目を開けてくれ。
また鼻水が出てきた。けど私は泣かない。泣きたいのはきっと、父のほうだから。
私は泣くかわりに、思いきり息を吸い込んだ。
「お父さん! 陽子だよ! 私が、陽子が舵取りしてるからね! だから、大丈夫だよ!」
私は声を限りに叫んだ。
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