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大江賢治先輩と三枝次美先輩のカップルは、わたしが星風学園高校に入学した時にはすでに学校中に知られた美男美女カップルだった。
二人を初めて見たのは、新入生歓迎の為の部活合同発表会だった。主に文化系の部活を新入生にアピールするイベントで、各部から何人かの代表が出て色々なパフォーマンスをしたり、作品を展示したりする。
書道部の書道パフォーマンス、吹奏楽部の演奏、ダンス部のフォーメーションダンス。その、次に。
演劇部の二人がステージに立った。大江先輩と、三枝先輩。演劇部の部長と副部長にして看板役者。演じたのは、二人の男女が街角で出会い、別れ、再び巡り合って結ばれるまでの二人芝居だった。
観ていて、わたしはすっかり心を奪われてしまった。いや、多分一目惚れした。ステージの上の先輩に。大江先輩も、三枝先輩も、何か特別な輝きに包まれていた。この人達の近くにいたい。そう思った。
わたしは一も二もなく演劇部に入部した。入ってみると、演劇部というものは意外と厳しい部分もあった。運動部並みにストレッチやトレーニングがあるとは思わなかった。演劇は身体を使って表現するものなので、身体をコントロール出来ないといけないからだという。
引っ込み思案だったわたしに、ほとんど主役に近い役割を振られた時は本気で悩んだものだ。そんな時、先輩は親身に相談に乗ってくれた。自分も、以前は引っ込み思案だったと。先輩の先輩──この演劇部を作り上げた人達にステージに上げられ、演じる面白さを全身で感じたからここまで来れたのだと。
「舞台の上ってね、とっても自由なんだよ」
先輩はそう言ってくれた。
その時の先輩の優しい微笑みを見て、わたしは思った。──ああ、わたしはやっぱりこの人が好きだ。
わたしは、恋人のいる先輩に、どうしようもなく恋に落ちてしまった。
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