10人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みが始まる少し前あたり、突然大江先輩が学校に来なくなった。
表向きは事故で入院してるということになってたけど、本当のところはわからない。何かの事件に巻き込まれて大怪我をしたとか、悪い奴に誘拐されたとか、事件の目撃者になったので警察に保護されているとか、どこかの芸能事務所のオーディションを受けるべく家出したとか、変な噂ばかりが皆の間を行き来していた。
ただわたしが知っているのは、心配そうなそぶりをなるべく見せまいとしている──そして一人になった時にこっそり涙を拭っている三枝先輩の姿だけだ。恐らく三枝先輩は大江先輩の身に何が起こっていたのかを知っていたに違いないのだが、三枝先輩は誰にも何も明かさずにいた。
そのうち夏休みになり、三枝先輩も部のみんなの前に姿を見せなくなり──一週間ほどして、大江先輩と三枝先輩は二人そろって戻って来た。
前と同じように一緒にいる先輩達は、前よりももっと密な関係になっているように見えた。……きっとこの二人は何かを乗り越えたのだ、とわたしは思った。もはや誰にもこの二人の間に入る余地はなかった。
いや。最初から、二人の間に他人が入ることなんて出来なかったのだ。
わたしの恋は、始まる前から終わっていた。
最初のコメントを投稿しよう!