豊の為に

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「どういう事よ」景子が、金切り声を上げた。 山城は、落ち着き払って「そう言う事です」と、言った。 「何で蘭子が養女なのよ、いつ養女になんかなったのよ」 「え~とっ、一昨年の7月ですね」山城は、書類を見ながら言った。 蘭子は驚いた、パパと結婚すると言って、困らせた、二週間後だった。 あの時、保留と言って、蘭子の無茶から逃げたとばかり思っていたのに 本当に、蘭子の事を考えていてくれたんだ。 蘭子の胸が、きゅんっとなった。 「じゃ、その頃から、蘭子は、お父さんの愛人だったって事?」 皆は、更にざわめいた「知らん顔して、よくもお姉様、お姉様って 私の事、呼べたものね」景子は、怒りに震えて、そう言った。 「いいえ、社長と蘭子様は、蘭子様が17歳の時からの お付き合いだそうです」山城は、何でも無いと言う顔で 「一時、蘭子様の引っ越しなどで、途絶えていたお付き合いが 景子様のご結婚で、再び始まったそうです」「えっ、私の所為?」 景子は、ちょっとたじろいだ。 「そうですね、景子様が、遼様と結婚なさった事で 二人は再会した訳ですから」と、言う山城に 「それにしても、たかが愛人ごときに、三分の一の遺産とは あまりにも、多すぎだ」と、守が言った。 「そうでしょうか、最初、社長は、蘭子様を 奥様にしたいと申されましたが、色々な事を考慮して それは、私が反対し、養女と言う事にしたのです。 もし、あのまま奥様になっていれば、財産の半分は、蘭子様の物でした」 守と景子は、ぎょっとした、そうなっていれば、自分達の取り分は もっと少なくなる。 「社長は、こう申されました、蘭子は、欲が無さすぎる。 私のお金を、少しも使ってくれない、こんな関係にしてしまって 結婚して家庭を持ち、子供を産むと言う、女の幸せを全て取り上げた。 こんな事では、埋め合わせは出来ないが、せめてもの、私の気持ちなのだと、私にも、社長のお気持ちは、よく分かりました」 皆は、しんとした、景子は、遼の株券を貰った事を、思い出した。 「社長の最期を看取る為、誰よりも献身的な看護を尽くした蘭子様です 私は、少しも多いとは思いません」皆は、更にしんとした。 あの、最後の父を抱いた、蘭子の姿を思い出し 「まぁ、親父の遺言なら、仕方ないな」 守はそう言って、納得し、事は落着した。 マンションへ帰る、車の中で「高倉、お前、この事を知っていたの?」と 蘭子は聞いた「いいえ、私も初耳で御座います、社長と山城様だけで お決めになったので御座いましょう、それにしても、驚きましたね 蘭子様が、養女だなんて」「うん、吃驚した」 「面倒な手続きは、全て私がやります、お任せ下さい」 「うん、私は、何も分からないからね」高倉は、今こそ 蘭子の役に立つ時だと、張り切った。 蘭子は、豊が持っていた株券をはじめ 諸々の財産の三分の一を、譲り受けた。 その結果、伊市川酒造の株は、守、34%、景子23%、蘭子13%となり 後の、25%は、親戚五人が、分けて持っていた。 数日後、蘭子も呼び出され、株主の会議が持たれたが ただの親戚の集会みたいだった、蘭子は、末席に座り、黙って見ていた 親戚は、豊の義弟、吉野と言う男を中心に、まとまっていて 皆は、吉野の思いのままにされている様に感じた。
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