54人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうなれば、お兄様の株は、47%、誰が何をしたって、市川酒造は
揺るぎません」そう言った蘭子は、景子の方を向き
「お姉様っ」「は、はいっ」蘭子の剣幕に、景子は飛び上がった。
「お兄様がピンチなのに、何故手を貸してあげないのです?
お兄様を支えるのが、お姉様の役目でしょ。
こんな話をご存知ですか?象のおこぼれを貰っていた小者が
この象が居なくなれば、もっと自分の餌が増えると、象を殺してしまった
当然、象の餌は無くなり、自分も飢えた、お姉様は、これと同じ事を
なさるおつもりですか?」「い、いいえ、そんな事は、、」
「いざとなったら、自分の株を、お兄様に譲る位の覚悟は
常に持っていて下さい」「は、はい」景子は、素直に返事をした。
蘭子ではなく、自分が兄を助ける立場だったと、気が付いたのだ。
「それから、叔父様」蘭子は、吉野の方を向いた。
もはや、自分が社長になる事は、出来なくなったと
吉野はがっくりしていた。
そんな吉野の目を、蘭子は、じっと見つめた、吉野の胸がどきりと揺れた
「叔父様は、今まで通り、市川酒造のご意見番として
お兄様や、お姉様を守って下さいますよね」
二人の邪魔をするなと言わないで、守って呉れだなんて
そんな目で言うのか、吉野は、揺れる心のままに
「ああ、私の全力を持って、守ってみせるよ」
まるで蘭子に誓う様に言ってしまった。
自分の獲物だと思っていた蘭子は、豹のように素早く逃げて行き
今度は、可愛い子猫の様な表情で
「有難う、叔父様」と、にっこり笑ったのだ。
何の欲も無い、この女には勝てん、自分の野望を打ち砕いた女なのに
久し振りに高まった、男の気持ちで、その美しい横顔に見とれた。
「では、私はこれで」蘭子は、そう言って自分のバックを持った。
「蘭子さん、これからどうなさるの?」景子が聞いた。
「持ち株ゼロの私です、もう、ここへは来れません。
市川家にも、二度と来る事は無いでしょう」「えっ」
「でも、お姉様、最後に市川家の娘として、動いてみようと思っています
この夏のビール、金蘭は、私の名前を付けてくれた、パパの形見です
その売り上げを、少しでも伸ばす為に
最後の、あがきをしてみるつもりです」
そう言うと部屋を出ようとして、振り返り「最後に」と言った。
皆は、しんと静まって、次の言葉を待った。
「私の事は、ただの一言も、外部に漏らしてはなりません。
輝かしい市川家に、スキャンダルは禁物です。
たとえ、どんなに信頼している家族にも、これ」と言って
口に、チャックをして見せ「肝に銘じて下さいね」と言うと、出て行った
誰も、動く者は居なかった、なんと見事な女性だろう
泥沼になる所だった、市川家の内紛を、あっという間に治めてしまい
自分の倍以上の年上の皆に、説教し、釘を刺し
市川家の行く末を、盤石のものにした。
「ねぇお兄様、今の市川酒造に一番欲しい人材は蘭子さんじゃ無い?」
「そうだな、蘭子は、私達より遥かに優秀な実業家だ
それに、本当に欲が無い」
「お父様は、そんな蘭子さんが、好きだったのね」
「そうだろうな、私達に、困った事が出来たら
きっと蘭子が助けてくれると思って、兄弟にしていたんだろう」
「折角、兄弟になったのに、もう、お兄様とも、お姉様とも
呼んでくれないのね」景子は、涙ぐんでそう言った。
蘭子は、自分の秘書にした高倉に、守へ株を譲ったと知らせた。
また蘭子の口座の金額が、ど~んと増えたが、そんな事には
まるで頓着しない、蘭子は、自分を本当に愛してくれた豊に
最後の恩返しがしたかった。
皆川に電話を入れ、会いたいと伝える、皆川は、一も二も無く承諾した。
最初のコメントを投稿しよう!