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瀬川は、遼と過ごした、ドイツの夜を思い出した。
仕事で知り合った二人だったが、直ぐに二人は仲良くなった。
だが、どちらも忙しい、いつも顔を合わせてはいるが
一緒に酒を飲む機会さえ無かった。
遼が、酒のフェステバルに行くと知り、取材を口実に一緒に行き
ドイツのホテルで、やっと二人は、好きなワインを飲みながら
深い話が出来た、瀬川が、最も大切にしている思い出だった。
蘭子は、遼の追悼式で、やりたい事が有ると、瀬川に相談した。
その話は、瀬川を有頂天にさせた。
「それは願っても無い事です、こちらで出来る事は、私が、責任をもって全てやります」そう言う瀬川との、長い打ち合わせが終わると
瀬川は、蘭子に握手して貰い「ぶしつけな事をお聞きしますが
ご結婚の、予定などは?」と、思い切って聞いてみた。
「上手く行けば良いなぁと、思っている所です」
こんな素敵な人だ、やっぱり想い人は、居て当然だったが
ちょっと残念な瀬川だった。
しかし、これで追悼式は、大成功する、局長から褒められるのは確定だ
帰りの車の中で、あの最後の夜を、もう一度思い出して
瀬川は、深いため息をついた。
一方、蘭子は「さぁ、忙しくなるわ、照子さんの所へ行かなくっちゃ」
そう言ったが「あ、その前に」と、もう一つの大事な事をする事にした。
生前、遼は、自分の家の近くに墓地を買い、父の遺骨を移していた。
当然、母も遼も、その墓地で眠っている。
辛さと忙しさで、ずっと、お参りもしていなかったが、久し振りに
お墓にお参りした、ほったらかしていたのに、墓は綺麗にされていた。
「高倉、お前が、お参りしてくれていたの?」
「はい、月命日とお彼岸だけですが」「有難う、嬉しいわ」
「お礼なんて、私が、蘭子様にしてあげられるのは、これ位ですから」
蘭子は、高倉の気持ちが、本当に嬉しかった。
お寺に行った蘭子は、住職に、事情が有って、母と兄の一回忌は
当日には出来ない、少し早いが、一回忌の法要をしても良いかと聞いた。
住職は、優しく「法要は、いくら早く行っても構わないのですよ。
来年は、お父様の十三回忌でしたね、お忙しいなら、お父様の分も
まとめて、ご一緒になさったらどうですか?」と、言ってくれた。
折角の薦めなので、蘭子は、父の十三回忌も一緒にする事に決め
その二日後に、高倉と二人だけだったが、三人の法要を済ませた。
遼の追悼式の様子を放送する番組は、製作費など、市川酒造が
全面的にバックアップしてくれ、製作スタッフは喜んだ。
いよいよ、追悼式が始まった。
全国の、いたる所に遼様ファンの手で、祭壇が作られ
献花した皆は、テレビの前で、追悼式の様子を見守る。
その会場になったのは、大京ドーム、5万人を収容出来たが
遼様ファンは、入り切れず、ドームの外に溢れた。
そのファンの為に、東西南北、四ケ所に超大型のテレビが置かれ
会場内の様子が、見られる様になっていた。
出来るだけ多くの人に、見て貰いたいと言う
蘭子の希望に、瀬川が応えた物だった。
場内の舞台の上段には、白い花に埋もれる様に、遼の写真が飾られている
その前には、大京テレビで、一番の人気アナウンサー佐野が
緊張した面持ちで、始まるのを待っていた。
一方、大京テレビのスタジオには、司会者の小原が待機し
ゲストに呼ばれたのは、売れっ子の女優、岸あかりと
毒舌家の演劇評論家、山野、市川酒造の広報、関口だった。
時間になり、いよいよテレビの生放送で、遼の追悼式が始まった。
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